2011年の東日本大震災に関連した民事訴訟で、岩手県の被災地を管轄する盛岡地裁が少なくとも6件の裁判記録を特別保存(永久保存)にしたことが関係者への取材で分かった。1995年の阪神・淡路大震災では、別扱いで保存される判決原本を除いて、ほぼ全ての記録が廃棄されていた。東日本大震災では、歴史的災害の教訓が裁判記録を通じて後世に引き継がれる。
2022年に、神戸連続児童殺傷事件など重大な少年事件の記録が全国で廃棄されていたことが分かり、最高裁が保存制度を見直した。現在、各地の裁判所が一般からも要望を受け付け、永久保存とする記録の選別を進めており、主要日刊紙のうち2紙以上に判決が掲載された事件などが対象となっている。
盛岡地裁や、保存を要望した元新聞記者の奥山俊宏上智大教授によると、特別保存されたのは、盛岡市の百貨店「中三盛岡店」地下で地震から3日後に起きた爆発事故に絡む訴訟2件▽地震発生直後に気象庁が出した津波警報などに絡む訴訟1件▽防災センターを避難場所と誤認して津波に巻き込まれ死亡したことに絡む訴訟1件▽災害関連死訴訟2件。
保存決定日は、災害関連死訴訟が21年10月と12月で、それ以外は24年12月20日だった。特別保存された理由は「全国的に社会の耳目を集めた、または当該地方における特殊な意義を有する」などだった。
同地裁の判決などによると、例えば盛岡の爆発事故では、警報器が鳴ったにもかかわらず「ガス漏れはない」と判断され、その後事故が起きた。訴訟で原告側はガスの臭いが土壌と反応して消える可能性を指摘したが、同様の現象は阪神・淡路大震災の直後、洲本市のアパートで親子4人が死亡したガス漏れ事故の訴訟でも原告側が指摘していたという。しかし、洲本の裁判記録は廃棄されていた。
今回、盛岡の裁判記録が特別保存となり、災害直後のライフラインとガス漏れの危険性について重要な知見が後世に伝えられることとなった。特別保存された民事記録は国立公文書館に移管される。
阪神・淡路関連の訴訟を取材したこともある奥山教授は、20年に要望した東日本関連の訴訟記録の特別保存が認められ、「判決に至る法令の解釈よりも、書証や尋問、双方の主張の中で積み上げられた詳細な事実関係に意義がある」と話している。
事件記録廃棄問題を受けて最高裁が設置した第三者委員会は現在、新制度で保存を検討するよう定められた「一定の重大な社会事象」の扱いなどを議論している。昨年1月に起きた能登半島地震の裁判記録が特別保存の対象となるかどうかも注目される。(霍見真一郎)