20日投開票の参院選兵庫選挙区(改選数3)は、前明石市長の無所属新人、泉房穂氏(61)=立憲民主党県連推薦=の当選が確実となった。前回参院選と並ぶ過去最多の13人が立候補した全国屈指の激戦区で、泉氏は序盤から幅広い支持を集めて現職らを大きくリード。「さまざまな相乗効果が働いた結果」と見る、白鳥浩・法政大大学院教授(現代政治分析)に聞いた。
昨年は日本の「SNS選挙」元年だった。東京都知事選で石丸伸二氏が2位となった「石丸現象」、玉木雄一郎氏が率いる国民民主党の躍進、斎藤元彦・兵庫県知事の出直し選での再選と、交流サイト(SNS)の影響する選挙が続いた。泉氏も、SNS選挙によく適応した一人だといえるだろう。
泉氏は非常に高い知名度を持っていて、62万人のフォロワーがいるX(旧ツイッター)に積極的に投稿するなど、SNSの使い方を熟知している。本人の発信だけでなく、過去の発言などからショート動画が作られて拡散している。
地元の言葉丸出しでまくしたてるところも、親しみやすい人柄ということで受けているのだろう。市長退任後は、政治討論からバラエティーまで、いろんな番組に出ており、そのキャラクターは際立っている。彼自身が強力なコンテンツなんですね。自分がどう見えているかよく分かっていて、それはSNS時代の選挙において非常に重要なところだ。
有権者はタレントに近い形で受け入れているのではないか。政治の「推し活」化でいわれる、ファンのような票を集めているのだと思う。そこから、独走する状況が生まれた。
政策は市長時代の延長で、福祉に手厚い。「国民を救う政治へ」という明確なメッセージもあり、今の政治を転換すると言っている。単なるタレントでなく、市長としてさまざまな筋の通った政策を実現してきた実績もあり、既存の政治にへきえきとしている人に刺さっているのだろう。
無所属で立候補したことで、票を広く集めることができた。泉氏が出馬会見で「魅力的な政党はない」と発言し、国民民主党が支援を取りやめたのは、計算なのかそうでないのか分からないが、不利には働いていない。
選挙活動の予定を伏せてどこに現れるか分からず、郡部から選挙戦を展開する「川上戦術」も、結果的に注目を集める効果を発揮した。圧倒的な知名度があっての戦い方で、非常にうまい。
兵庫選挙区で立候補した立花孝志氏の存在も大きいとみている。今回、立花氏が逆に、斎藤知事の告発文書問題でキープレーヤーだった泉氏を、クローズアップさせたのではないか。
斎藤知事の出直し選で、泉氏は「アンチ斎藤」の立ち位置だった。斎藤知事の当選を目的とする「2馬力」選挙を展開した立花氏に対し、泉氏が反斎藤票の受け皿になったことが考えられる。
泉氏の市長時代の暴言問題が、選挙戦で批判材料にされていたが、立花氏がそこにこだわればこだわるほど、有権者は逆に「泉さんってどんな人だろう」と関心を持つ。兵庫県議会の斎藤知事不信任案提出を泉氏が画策したという「黒幕説」がSNSで拡散されたが、報道機関のファクトチェックで否定された。そうした点も、プラスに作用しただろう。
暴言自体も、政策を実現しようと頑張るあまりだというふうに、ポジティブに受け入れられている節がある。かえって、そこが人間らしいというか、暴言問題が起きた時のストーリーとはちょっと異なって、受け取られているようだ。斎藤知事が再選すると、おわびを表明したことも、行動にうそがない人だと受け止められているのではないか。
そうしたところがむしろ、今の政治を変えてくれる起爆剤になると、有権者は思っているのかもしれない。
大変なのは、当選してからだ。トップ当選となると、期待を一身に背負うわけだから、政策を実現できなければ、有権者の失望は大きい。国会の中では大勢の中の1人になるので、どれだけ力を発揮できるかも試される。期待を裏切られると、今度は過去の暴言などがマイナス面としてクローズアップされることになりかねない。
【しらとり・ひろし】1968年生まれ。静岡市出身。早稲田大博士(政治学)。英オックスフォード大客員フェローや静岡大助教授などを経て、現職。専門は現代政治分析(政治学、地方自治、国際政治学)。
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