兵庫県の銭湯が物価高に苦しんでいる。燃料費が急騰し、県は入浴料金上限額を過去最大の上げ幅で引き上げ、全国2番目の高さとなった。今後も物価高の収束が見通せない上、値上げによる客離れ、店主の高齢化、老朽設備の修繕費など懸念や課題は積み上がるばかり。それでも阪神・淡路大震災を経験した店主は「兵庫の銭湯文化の原点は震災」として、銭湯が提供する「ぬくもり」を守り続けようとしている。
■客離れ懸念、かさむ修繕費
「入浴料金改定のお願い」。森温泉(神戸市東灘区)に1月、値上げの張り紙が掲示されていた。県が一般公衆浴場(銭湯)の入浴料金上限額を80円引き上げ、大人570円になったことを知らせる内容だった。
店主の立花隆さん(65)の胸の内は複雑だった。銭湯料金は都道府県が上限額を定め、各施設が上限内で料金を決める。「一気に値上げすると、お客さんが離れてしまう。手放しでは喜べない」。市浴場組合連合会長でもある立花さんには、同業者から不安の声が寄せられていた。
値上げが避けられない背景にあるのが、銭湯の厳しい経営状況だ。県生活衛生課が標準的な規模の銭湯を調べたところ、1施設あたり、平均で月約22万4千円の赤字と推計。森温泉でも、湯を沸かすガス料金は2020年ごろまで月30万円程度だったが、この5年で倍以上に上昇。湯上がりドリンクやタオルなどの仕入れ価格も軒並み値上がりし、経営を圧迫していた。
■「二極化」で閉店も
物価高以外にも銭湯を巡る課題は多い。
県公衆浴場業生活衛生同業組合の丸岡伸年事務局長(65)は、銭湯を取り巻く状況を「二極化している」と指摘。サウナなど付加価値のある設備を備え、後継者がいる銭湯は金融機関からの融資を受けやすく、施設を充実させることができる。一方、小規模浴場は来客数が伸びにくく、結果的に閉店に追い込まれるケースが多いという。
神戸市は、「地域コミュニティーの拠点」である銭湯の苦境を受け、3月から、大人の入浴料を500円にする補助を始めた。来年3月まで市内31の銭湯を対象にした取り組み。担当者によると、入浴料そのものへの支援は、他自治体でも例がないという。制度の継続については今後の経済状況を見ながら検討する。
市の補助により、森温泉では今月1日から大人500円とし、値上げ幅は10円で済んだ。立花さんは「地域の皆さんあっての銭湯。お客さんに還元できる支援はありがたい」と歓迎する。
約50年前から通う芦屋市の岩田耕八さん(82)は「値上げより、辞められる方が困る」と話す。阪神・淡路大震災で施設が全壊し、プレハブで営業を再開した際も、幼い息子と行列に並んで入浴したという。
週に3~4回サウナを利用する永野満代さん(88)にとっても、銭湯は大切な交流の場だ。「裸の付き合いだからみんな仲が良いんです」と笑顔を見せる。
立花さんは「兵庫の銭湯文化は震災の経験が根底にある。災害時のライフラインとして、公共の福祉として、地域の風呂であり続けたい」と話している。
(合田純奈)























