出石永楽館(兵庫県豊岡市出石町)の復元工事が始まった。棟梁(とうりょう)の田中定さんは当時69歳。大工歴50年以上だが、文化財を扱うのは初めてのことだったそうだ。歴史・文化的価値を損なってはならず、気が遠くなりそうな作業が延々と続く。全ての材に番号を付け、写真を撮り、一つ一つ丁寧に外し、修繕して、元にあった場所に戻していく。雨漏りで腐ったからと柱を丸々取り換えることはできない。本当に傷んだ箇所だけを切り取り、昔ながらの工法で木をつないでいく。天井の板を外す時も簡単にくぎ抜きなどを使えないので、くぎの頭をサンダーで慎重に削り取ったそうだ。
一番苦労したのは、廻(まわ)り舞台。「材料費は自分で払うから新しく作り直させてくれ」と心から思ったという。その苦労は想像を絶するが、なんと工期2年で全てを終わらせた。これはもう田中棟梁にしかできない神業だ。
ふと、この建物自体が自分を守ってくれる人を呼び寄せているような気がした。そこには常に思いやりがあって、だからこそ永楽館はいつも澄んだ気で満ちているのだろう。
最高のメンテナンスは人が踏み、触れること。復元工事の資料や写真など、舞台左側の階段の上「カヅラ場」に展示してある。見学の際にはぜひ手に取ってもらいたい。
【バックナンバー】
■昔の空気感で残るまち並み
■移住の決め手は永楽館
■植物園にある“真の共生”
■自然そのまま「高原植物園」
■また森に環る「新聞ばっぐ」
■広い但馬のポテンシャル
■雨でも傘を差さない?
■花見をしないのは、なぜ?