29年前の1月17日午前5時46分。雑誌のライターだった近兼拓史(ちかかねたくし)さん(61)=西宮市=は、神戸市長田区大橋町3のマンションにいた。
冷蔵庫やコピー機が左右に飛び交い、まるで「シェーカーの中の氷」のようだった。揺れが収まり、しばしの静寂。やがて、あちこちから悲鳴が聞こえだした。
「急いで近くの実家に向かった。『誰か助けて』と叫んでいる人もいる。それを無視して実家へ向かわないといけない。まわりはがれきだらけで戦争が起こったかのような景色。見えている範囲が全部そう。まさか神戸が揺れの中心とは思わない。倒れた阪神高速を見て、この世の終わりかと思った」