北野有作さん(左端)や野上鈴さん(左から2人目)らが立ち合う中、支援物資を受け取る熊本県芦北町の松本俊造副町長(同3人目)=同町(芦北町提供)
北野有作さん(左端)や野上鈴さん(左から2人目)らが立ち合う中、支援物資を受け取る熊本県芦北町の松本俊造副町長(同3人目)=同町(芦北町提供)

 7月の熊本地震後、現地の友人を案じた一本の連絡が、約800キロ離れた二つのまちをつないだ。地震で被災した熊本県芦北町に今月11日、支援物資を満載した兵庫県丹波市からのトラックが到着した。出発点は、同市氷上町常楽の橋本芙迂稟(ふうりん)さん(29)と、芦北町出身の「あしきた親善大使」野上鈴さん(27)の友情だった。被災地に心を寄せる人たちの思いが重なり、丹波から芦北へ支援の道が開かれた。(秋山亮太)

 2人はダンスをきっかけに大阪で知り合い、共通する目標を追う中で親しくなった。離れてからも交流を続け、橋本さんは「互いに心から思い合っている」と話す。熊本で災害が起きるたび、橋本さんは野上さんに「大丈夫?」と連絡してきた。

 今回も橋本さんはすぐ野上さんへ連絡した。芦北町も被災したと聞き、友人だけでなく、芦北のためにも何かできないかと考えた。個人でできる支援には限りがある。そんな中、丹波市氷上町氷上の運送会社「大伸急行」が熊本向けの支援物資を募っていることを知った。

 「大伸急行の取り組みを多くの人に知ってもらい、芦北にもつなげたい」。橋本さんは、SNSなどで丹波地域の魅力を発信する岩田瑞希さん(32)と交流があったため、協力を求めた。岩田さんも橋本さんに共感。野上さんから届いた現地の映像や声を編集し、物資提供を呼びかける動画を制作・発信した。

 同じ頃、橋本さんは同社と野上さんをつないだ。野上さんは、初めて電話で話した同社専務の北野有作さんから「会いに行くからね。待っててね」と声をかけられた。面識のない自分や芦北の人たちを案じる言葉が胸に残った。

 同社の呼びかけや岩田さんによる発信などを通じ、企業約15社と多くの個人から、水約7トンをはじめ食料や日用品が寄せられ、同社最大のトラックの荷台を埋めた。

 一方、芦北町では混乱を避けるため、個別の支援物資の受け入れを控えていた。「丹波の人たちの思いが伝わらないまま支援を断られるのは悔しい」。野上さんが同町との調整を担い、それまでの経緯や携わる人たちの気持ちを町に伝え、受け入れにつなげた。

 10日夜、大伸急行の4人が丹波を出発。翌11日、芦北町で松本俊造副町長らに支援物資を渡した。

 現地では野上さんも待っていた。丹波市からの一行の「こんにちは」という大きなあいさつに「芦北のみんなが笑顔になった」と振り返る。野上さんは、こみ上げる涙をこらえるのに必死だった。

 荷物には、被災者を励ます手書きのメッセージも添えられていた。「『ありがとう』だけでは伝えきれないぐらいの気持ちでいっぱいです」と野上さん。大伸急行の北野さんは、自分たちは運ぶ役目を果たしただけで、多くの人が物資と気持ちを託したからこそ届けられたと、支援に携わった人たちへ感謝する。

 芦北町では応急対応に必要な物資は確保され、野上さんが次に願うのは人と人との交流だ。地震後、多くの地域行事が止まった。「県外の人が楽しい行事を開いてくれたら、町のみんなの笑顔も増えると思う」と野上さん。そして今度は、自分たちに思いを届けてくれた人がいる丹波へ「早く行きたい」とほほ笑む。

 橋本さんも「物資を通じて人と人の心がつながった。落ち着いたら二つのまちの交流が始まったらいいな」と願う。物資を載せたトラックが走った道を、今度は丹波と芦北の人々が行き来する。橋本さんと野上さんはそんな日を思い描く。