「11月に日本へ行きます。心の準備をしておいてください」。目の前のローマ教皇フランシスコがにっこりと笑いながら私の手を握り、イタリア語で語りかけてきたのは2019年1月23日の早朝のことだった。外遊先のパナマへと向かう教皇特別機の中で、日本人記者として唯一同行していた私に、歴史上2度目となる38年ぶりの教皇訪日の意志が示された。慌ててパソコンを開き、機内Wi-Fiをつないで速報を打った。多くの欧米メディアが共同通信の記事を引用し「教皇、11月に日本訪問の意向」と次々と報じていく。これを受け、バチカンは訪日が検討されていることを初めて公に認め「教皇にとって日本に行くことは『大いなる念願』である」との声明を発表した。こうして長年の夢をかなえた教皇は訪日の5年余り後となる今年4月21日、バチカン内の宿舎で脳卒中と心不全のため死去した。(共同通信前ローマ支局長=津村一史、文中の肩書・年齢は当時)