物価上昇が続いている。働く人が安心して暮らすには、生活保障の基盤である最低賃金を継続的に引き上げることが重要だ。
国の中央最低賃金審議会は、2023年度の最低賃金の改定について、全国平均で時給1002円とする目安を決めた。千円超えは初めてだ。上げ幅も過去最大で、現在の961円から41円の増額となる。
引き上げの目安額は、都道府県の経済状況に応じてA、B、Cの3ランクに分かれ、Aランクの41円は東京、大阪、愛知などの6都府県が該当する。兵庫はBランクで40円が示された。目安通りに実施されれば、兵庫はちょうど千円となる。
これから各都道府県の地方審議会が話し合い、実際の金額を決める。10月ごろから、外国人を含む全ての労働者に適用される。
全国平均の引き上げ率は4・3%となった。近年は新型コロナウイルス禍の20年度を除き、3%程度の上昇が続いていた。今回はそれを上回ったものの、22年10月~23年6月の消費者物価指数は前年同期より4・3%増えた。物価高騰で最低賃金の引き上げ分が吹き飛ぶ状況だ。
時給1002円で週40時間フルタイムで働いても、年収は200万円程度である。非正規労働者が家計を主に支える世帯が増える中、これではワーキングプア(働く貧困層)から抜け出せない。他の先進国と比べても見劣りしたままだ。
最低賃金は、フルタイムで働けば経済的な心配をせずに暮らせる水準にすることが求められる。憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」には、時給1500円台が必要との指摘もある。働く人が将来に希望を持てるよう、力強い底上げにつなげたい。
一方、中小や小規模の事業所には、実効ある支援策が欠かせない。中央労働審議会では、経営者側が原料高などの厳しい経営状況を踏まえるよう求めた。中でも、コストの増加分を適切に価格転嫁できる環境整備が急がれる。国は生産性向上などに取り組む中小企業への助成をはじめさまざまな施策を実施してきたが、効果を検証すべきだ。
事業所側には、賃上げで人手不足が深刻化するのではないかとの懸念も強い。配偶者に扶養されているパート従業員が、税や社会保険料の優遇が小さくなる「年収の壁」を越えないよう、就労時間をさらに抑える可能性が高まるからだ。女性の経済的自立の観点からも、政府は壁の解消に全力を挙げてほしい。
今回、東北や九州などの13県は、目安通りに上がっても時給900円に満たない。地域差の是正に向けた取り組みも強化せねばならない。
























