再審制度は無実の罪を晴らすためにある。それなのに、制度の不備や検察の頑迷な姿勢により、名誉回復が妨げられる現状がある。早期に是正しなければならない。

 1966年に静岡県清水市(現静岡市)のみそ製造会社専務宅で一家4人が殺害された事件で、死刑が確定した袴田巌さん(87)の裁判をやり直す再審公判が静岡地裁で始まった。事件発生から57年、第1次再審請求からも42年が経過している。

 2014年、第2次請求で地裁は再審開始を決め、袴田さんを釈放したが、検察側の即時抗告で再審は取り消された。最高裁に審理を差し戻された東京高裁が今年3月に再審を決定、検察の上訴断念で確定した。

 いつ刑が執行されるか分からない恐怖に耐え続ける苦痛は想像を絶する。拘禁反応で心神喪失の状態になっているとして、地裁は袴田さんの出廷を免除した。その事実は重い。

 裁判のやり直しに長期間を要する要因は、検察に抗告権を認めていることにある。「狭き門」をくぐって再審を勝ち取っても、検察が異議を申し立てれば上級審へ審議が持ち越される。被告にとってはあまりに不合理な仕組みだ。

 日本の再審法のモデルとなったドイツでは、50年以上前に検察の抗告が禁止されている。日本も早急に改善しなければならない。

 証拠開示のルールも整える必要がある。袴田さんの事件では第2次再審請求で犯行着衣の写真などが開示され、「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」が導かれた。しかし開示の可否の判断は裁判官によって異なる。これでは公平性は保てない。

 袴田さんの再審公判で、地検側は有罪立証する方針だ。だが、論拠は破綻していると言わざるを得ない。

 最大の争点は、事件の1年2カ月後にみそタンクから発見された犯行着が袴田さんの物かどうかだ。弁護側は、長期間みそに漬かっていた衣服の血痕に赤みが残っているのは不自然と主張し、高裁は捜査機関による証拠捏造(ねつぞう)の可能性まで指摘した。

 検察側は補充捜査を実施し、赤みが残り得ることを立証する方針だ。他の証拠も総合的に判断し、袴田さんが犯人と説明できるとした。

 だが、血痕についてはすでに審理が尽くされている。他の証拠も犯行を示すには薄弱と高裁に指摘された。同じ論拠の蒸し返しは不誠実だ。

 法相の諮問機関は2010年、証拠を改ざんして厚生労働省局長を起訴した郵便不正事件を教訓に、有罪判決が著しく困難な場合は「引き返す勇気」を持つよう求めた。その理念をもう忘れたのだろうか。

 検察は直ちに無罪論告を行い、袴田さんに真の自由を届けるべきだ。