今回の参院選で重要な争点となっているのが、物価高対策である。
食料品や日用品などの値上がりのペースは賃上げを上回り、実質賃金は低下傾向を脱け出せない。この7月も食品だけで前年の5倍となる2千品目以上が値上げされ、家計の負担は増すばかりだ。
背景には人手不足や国際情勢の悪化による原材料高など構造的な要因が横たわり、収束は容易ではない。このため各党の公約は、さながら痛み止めの競い合いになっている。巨額の財源を要するだけに、実効性を慎重に見極めたい。
与党の自民と公明は、国民1人2万円の給付を打ち出す。一方の野党は、期間や対象品目で違いはあるが消費税の減税や廃止で一致する。
いずれの手法も一長一短がある。給付金は新型コロナウイルス禍などで前例があるが、大半は貯蓄に回り家計支援の効果は限定的だったと指摘される。減税は負担減の実感が大きいものの法改正が必要で、実施までに時間を要する。消費する額が多い高所得者ほど減税額も大きくなり、公平性を欠く点も見逃せない。
給付金は3兆円近い国費が要る。消費税減税は食料品を税率ゼロにするだけでも年約5兆円の税収が失われる。消費税は社会保障の財源に充当されており、医療や福祉などのサービス低下も懸念される。代替財源を具体的に示すことは不可欠だ。
2024年度の税収は物価高や賃上げで2兆円強の上振れが見込まれるため、与党はこれを給付金の財源に当て込む。立憲民主党は基金や特別会計の剰余金で、食料品の消費税を最大2年間ゼロとする場合の財源10兆円は賄えると主張する。
どちらも、その場限りの対策である。物価高が続けば、給付金や減税の効果は薄らぎ、さらに強いカンフル剤が必要となる。財源を赤字国債に依存するなら、1300兆円を超す国の債務はさらに膨らむ。今後の財政運営にどう影響するのか、各党には詳細な説明が求められる。
物価高対策の核心は物価高を上回る水準の賃上げを達成することだ。今年の春闘は大手企業を中心に5%を超える賃上げが相次いだ。中小を含め多くの企業に波及すれば、実質賃金のプラス基調も見えてくる。
給付金や減税が国民の負担を和らげるのに一定の効果を持つことは否定しない。ただその分を賃金底上げに結びつく施策に注いだ方が経済の好循環に結びつくのではないか。
公示前日の党首討論会では、与野党が互いの物価高対策を「ばらまき」と批判し合う展開となった。目先の対策で有権者の歓心を買うだけでなく、将来への希望を抱ける施策を競い合ってもらいたい。