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 「人生100年時代」と聞いて、長寿の喜びよりも、長い余生をどう生き抜くかという心配が先に立つという人も多いだろう。あすの「敬老の日」を前に、100年時代にふさわしい社会の実現に向けた課題を改めて考えたい。

 総務省によると全国の高齢者(65歳以上、8月1日時点)は3620万人、高齢化率は29・4%に上る。兵庫県(2月時点)は158万人、29・7%で、県の推計では2040年に177万人、37・8%に達する。

 日常生活を支える介護保険制度は崖っぷちに立つ。23年度の介護給付費は10兆8263億円に達し、制度が始まった00年度の3倍に膨れた。財源確保の方策が急がれる。保険料や利用者の自己負担などの将来試算を国民に示し、負担の在り方について議論を進める必要がある。

 介護保険のサービス基盤も揺らいでいる。厚生労働省の推計によると、職員の不足は26年度で25万人に上り、40年度には57万人に拡大する。訪問介護事業者は介護報酬減額の影響で倒産が相次ぐ。介護報酬の適正化はもとより、処遇改善と労働環境の整備、外国人材の活用、介護ロボットの導入など、多角的な取り組みが欠かせない。

 こうした中、重要性を増すのはフレイル(虚弱)予防だ。人と交わり、運動や趣味にいそしむことは、生きる喜びや、ひいては健康寿命の延長にもつながるだろう。

 多くの自治体が体操や茶話会などの「通いの場」の充実に取り組むが、参加者が偏る傾向もみられる。年齢や性別、健康状態、関心に応じた多様な「場」の開設を支援するとともに、医療機関の健診と連動させるといった医療・保健との連携の仕組みを整えてほしい。

 働く意欲のある高齢者の就業機会確保も重要だ。今年4月から、希望者全員の65歳までの雇用機会確保が完全義務化されたが、70歳までの就業機会確保は努力義務のままである。

 働くことは収入を得るだけでなく、自己肯定感や孤立を防ぐ効果も期待できる。企業での雇用延長にとどまらず、ボランティアなどの市民活動を含め、経験を新たな場で生かせる社会への変革が求められている。