この夏放映されたドラマ「愛の、がっこう。」(フジテレビ系列)は当初から異例の措置がとられていた。番組終了後、こんなテロップが毎回表示された。ドラマはフィクションだとことわった上で、「令和7年6月28日に改正風営法が施行されました。このドラマのホストクラブにおける一部表現には、違反となりうる営業行為が含まれています」と注意喚起したのだ。
物語は、規律の厳しい高校の教師である主人公が、生徒の指導を通じて歌舞伎町のホストクラブに勤める男性と出会い、彼が抱えるディスレクシア(読字障害)に寄り添ううちに恋に落ちる話だ。ここに描かれるクラブの広告やセリフの一部に、法改正後の禁止項目に抵触しかねないものがあったためと思われる。
具体的には、「料金についてうその説明をすること」「客の恋愛感情などの好意につけ込む営業」「指名数No.1などホストの営業成績を直接示す広告や、お気に入りホストの応援を過度にあおる広告など」がある。特に、「払えないなら風俗で働いて」などと売春や性風俗店への勤務、AV出演を要求することなどは刑事罰の対象となる。
■支援を降りない覚悟で
「法改正の効果はまだよくわからない」と語るのは、特定非営利活動法人レスキュー・ハブ代表の坂本新(あたら)さんだ。5年前にも本欄で紹介したことがある。東京の歌舞伎町を中心に夜の繁華街に出向いてアウトリーチを行い、性産業に従事する女性の実態把握と生活環境の改善に貢献してきた。その名の通り、現場と自治体や医療機関、警察、弁護士などの橋渡し役であり、本人が環境を変えたいと願うのであれば必要とされる支援をするというスタンスだ。シェルターの運営や暗数被害、すなわち警察などの公的機関に把握されていない被害の実態を明らかにすることも重要な業務である。
5年前と大きく変化したことがある。当時は、親が無職や非正規雇用であったりして経済的に苦しいからとか、虐待を受けているからといった理由が多く、昼の仕事では家賃も払えないためなかなか足が抜けられないでいる女性が目立った。手首にはリストカットの痕があり、見るからに未成年とおぼしき女の子たちもいた。新型コロナウイルスによるパンデミックが起こると、地方で仕事を失った女性が上京して歌舞伎町にたどり着くというケースもあった。
コロナが落ち着いた頃から顕在化し始めたのが、路上売春と外国人を含む買春者の増加だ。交流サイト(SNS)や動画サイトでは女性の顔を隠すことなく撮影した映像が世界中に公開されているためか、それらを頼りに女性探しをする男性の姿が見受けられるようになった。
警視庁のたびたびの摘発で明らかになったのは、女性たちの背景にある「推し活」だ。ホストクラブなどでつくった売掛金を支払うために、性産業、とくに路上で売春する若年女性が急増したのである。レスキュー・ハブにもホストクラブからの不当請求に苦しむ女性からの相談があり、弁護士を紹介して請求金額の開示を求めたところ請求が止まったケースもあった。ただ支援しても、また路上に戻ってしまう女性がいることは悩ましい問題だった。
昨年7月、こうした問題を受けて警察庁の「悪質ホストクラブ対策検討会」が設置され、レスキュー・ハブほか支援団体が参考人として招かれ、当事者の置かれた状況や現場の事例を報告した。これらが今回の法改正につながったことは大きな前進だが、女性たちは場所を移動しただけで依然現場にいる。そして摘発されるのは女性で、買う側はおとがめなし。売春防止法がそうなっているためだ。
1956年成立の売春防止法は、その成立の経緯から、「売春を行うおそれのある女子」の保護を目的としてきた。これが時代にそぐわなくなり、昨年4月に「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」が施行されたのはいいが、やはりこれも保護と支援が目的だ。未成年の場合は児童買春・児童ポルノ禁止法や刑法の強制性交等罪で買う側が処罰されるものの、成人の売買春となると罰則はない。罰則が伴うのは勧誘やあっせんなど、それによって利益を得る周辺行為に限られる。路上売春で女性だけが摘発されるのもそのためだ。
この非対称性は国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)でもたびたび問題視され、国会でも複数の議員が制度の見直しを求めているが法改正の動きはない。女性たちには精神疾患を抱える者もおり、できるだけ早く保護が必要と思われるケースも多い。自治体も警察も、法律でも解決することのできない困難な現場にいてできることは、つながった一人一人に丁寧に対応していくことしかないのである。
「支援のステージを降りない覚悟」(坂本さん)をもって活動しているNPOはいくつもある。彼らの働きは、もっと社会に支持されていいはずだ。私も彼らへの支援を降りない覚悟で、これからも伴走するつもりである。
(さいしょう・はづき=ノンフィクションライター)