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 世界的なエネルギー価格の高止まりが続く中、トラックや建設機械などの燃料となる軽油の取引で、販売会社が価格の引き上げや維持を目的にカルテルを結んでいた疑いが浮上した。事実なら言語道断だ。

 公正取引委員会は、石油元売り最大手のENEOS系などの販売会社8社を独禁法違反(不当な取引制限)容疑で強制調査した。担当者が長年にわたり情報交換し、東京都内の運送業者や建設業者などへの価格を調整した疑いがある。

 原油からつくられる軽油やガソリンは物流に不可欠であり、その価格は物流コストに直結する。上昇すれば国民生活への影響は甚大だ。政府は高騰を抑えるため2022年1月から、原油を仕入れる元売り業者に補助金を支給してきた。これまでに投じた予算は8兆円を超える。

 強制調査の対象となった8社の市場シェアは大きく、価格操作による負担増は運送業者だけでなく消費者にも及んだ可能性がある。巨額の物価高対策が講じられているさなかに、自社の利益を膨らませようと価格を不当に引き上げたとすれば悪質極まりない。政策をゆがめる行為とも言える。

 公取委は今回、行政処分を前提とした一般的な調査ではなく、検察への刑事告発を視野に入れた「犯則調査権限」を約3年ぶりに行使した。裁判所の令状を得て捜索や証拠の差し押さえができる。徹底調査で実態を解明してほしい。

 8社のうち6社は、神奈川県内の運送業者などに販売する軽油の価格カルテル疑いで5月に公取委による立ち入り検査を受けた。その過程で、東京でも同様の情報交換が行われている可能性が明らかになり、強制調査につながった。

 軽油などの石油製品は規格が一律で品質の差が出ず、価格で競争せざるを得ない。そのため過度な競争を避けようとカルテルなどの不正を招きやすいとされる。長野県でもガソリン価格のカルテルが明るみに出ており、各地で価格調整が横行しているのではと疑わざるを得ない。

 物流を支えるトラック輸送業者の99%は中小や零細の事業者である。人件費が上昇し、燃料費がさらに上がっても荷主への価格転嫁は難しい。自社で増加分をかぶるケースは多く、人手不足も相まって経営を圧迫している。

 不当な軽油の価格調整は、生活に不可欠な物流網の維持を脅かしかねない。政府は適正な市場環境の整備を進める必要がある。

 石油業界はコンプライアンスが厳しく問われていることを自覚すべきだ。取引慣行の見直しや意識改革に自ら取り組まねばならない。