日本の介護現場で働く外国人は9万人を超える。高齢者人口がピークに差しかかる2040年度には介護人材が57万人不足すると推計され、存在感はいや応なしに増す。
高市早苗首相は海外からの人材確保の必要性を強調しつつ、「秩序ある共生社会」を掲げ、永住などの在留資格の厳格化を打ち出す。外国人労働者の受け入れは、単なる数合わせの手段なのだろうか。
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外国籍のスタッフが活躍する兵庫県内の現場を訪ねると、出身国や、介護する側とされる側にかかわらず支え合う姿があった。
インドネシア出身の介護福祉士ディタさん(30)は、姫路市内で診療所や介護施設を運営する医療法人社団「石橋内科」で働いて8年目になる。デイケアやショートステイを担当する彼女の周りにはいつも笑顔の輪が広がる。
日本に興味を持ったのは花見や抹茶などの文化に引かれたから。バリ島の大学で学んだ後、18年から姫路市内の日本語学校へ留学した。将来は母国に戻り、日本語教師になるつもりだった。
しかし、石橋内科で介護のアルバイトを経験したことが転機になる。「利用者さまも職場の人たちもみんな優しくしてくれた。日本でずっと働きたいと決意しました」
日本語学校を卒業し、在留資格を留学から特定技能に切り替えた。日本で働き続けるには5年以内に介護福祉士の資格を取る必要がある。日本語の国家試験はハードルが高いが、合格に懸けることにした。
ハンディがプラスに
ディタさんは石橋内科が初めて迎え入れた外国人材。意思疎通を円滑にするため、施設側は播州弁ではなく標準語で話すよう利用者らに求めた。誰に対しても丁寧に接する彼女はほどなく職場に溶け込んだ。
石橋正子事務長は言葉のハンディがむしろプラスに働いたとみる。「利用者の訴えを理解しようと真剣に耳を傾けていた。私たちが学ぶべき点は多い」と語る。
コロナ禍で数年間会えなかった母国の婚約者エカさん(31)も石橋内科で働くことになった。2人は23年に故郷で挙式した。ディタさんは職場に戻った後に妊娠が分かったが「出産も日本で」と決意する。夫は特定技能の取得が間に合わず、予定日までに来日できなかった。
異国で一人、初産に臨む彼女を利用者たちは気遣い、「ここにはおばあちゃんがいっぱいいるから大丈夫。みんなで赤ちゃんを見守るからね」と励ました。重い荷物を持ったり、高い所にある物を取ったりするのも手伝った。デイケアを利用する横山久子さん(84)は「無事に女の子を産んだと聞いた時は本当にうれしかった」と振り返る。
ディタさんが2度目の受験で介護福祉士に合格した時も、施設中で祝福を受けた。「利用者さまは親だと思っています」とケアに精を出す。
異なる他者を認める
兵庫県立大環境人間学部の竹端(たけばた)寛教授(福祉社会学)は、介護者と利用者が支え合う関係の重要性を説く。「介護は一方的ではなく、ディタさんのようにケアしケアされる双方向性が質を高めます」
多様なバックグラウンドの人が働きやすい環境を整えれば、日本人の働きやすさにもつながり、職場を活性化できる。「海外からの人材を含め、他者の存在を認め、尊重し合う関係性がどんな職場でも重要」と竹端教授は強調する。
ところが最近は「他人に迷惑をかけない」ことを絶対に守るべき憲法のように自分自身や周囲に課す人が増えたとみる。
「ルールに自分を当てはめようとするあまり自尊感情を持てず、他者も尊敬できなくなっているのではないか。その矛先が外国人に向けられているように感じます」
出自の異なる人を他者として尊重することは、自分自身を認めることにほかならない。ともに生き、支え合える関係を築くことが、未来を開く鍵となる。























