高市早苗首相の陣営が昨年の自民党総裁選と今年の衆院選で、交流サイト(SNS)を悪用して対立候補を中傷する動画の作成や拡散に関わっていたとの疑惑が浮上している。
事実なら民主主義の根幹である選挙の公正さをゆがめる行為だ。首相は関与を否定しているが、追及が続く国会では解明に後ろ向きな姿勢が目につく。首相は重大さを認識し、疑問に正面から答えねばならない。
疑惑は週刊文春が今年4月に報じた。首相の公設第1秘書らが昨年10月の総裁選で、小泉進次郎防衛相らライバル候補をおとしめる動画を大量に作成・投稿するようIT会社代表の男性に依頼したとされる。
男性は共同通信の取材にも実名で応じた。それによると、知人から秘書を紹介され、昨年9月にSNS戦略に関するオンライン会議を開いた。総裁選で小泉氏優位を覆すにはどうしたらいいかと相談を受けた男性は、小泉氏と台頭する林芳正総務相の「ネガティブな発信」を提案し、独自開発した生成人工知能(AI)で動画を千本以上作り、約300個のアカウントで拡散したという。
首相は文春がオンライン会議の様子とされる音声データを有料公開した際、「有料会員になるのは拒否する」と確認をしぶり、後日秘書に確認したところ「自分の声に似ているようだが確信は持てないとのことだった」などと曖昧な答弁を重ねた。
高市事務所がオンライン会議の開催を認めたと報道されると「事実と違うと聞いた」と一度は否定したが、その後「事務所が回答した内容だった」と訂正した。首相は、男性とは「私自身も秘書も面識がない」と繰り返すが、少なくとも秘書との接点はあったことになる。「記録はない」「秘書を信じる」という説明では疑惑を払拭するには不十分だ。
男性は今年2月の衆院選でも、首相を含む与野党約50人の陣営から対立候補に関する動画の作成を頼まれ、うち20人に協力したと証言した。因果関係は不明だが、衆院選では自民党が圧勝した一方、集中的にネガティブ動画が拡散された中道改革連合の候補者が多数落選した。
匿名の第三者を装った中傷動画の大量拡散という手段で首相の座と強固な権力基盤を得たとすれば、高市政権の正統性そのものが問われる。首相は徹底的に調査し、事実関係を明らかにする責任がある。
デマや誹謗(ひぼう)中傷で政敵を陥れようとするSNS投稿は兵庫県知事選など各地の選挙でも問題になり、与野党は来春の統一地方選に向けて対策を議論している。そのさなかで発覚した疑惑を放置できない。与野党で問題意識を共有し秘書やIT会社代表の国会招致を実現するべきだ。
























