私たちは神戸市須磨区の「林山クリニック」にいる。高台にあり、緑に囲まれた静かな場所だ。夕暮れ時、どこからか鳥の鳴き声が聞こえてきた。
診察室に通され、梁勝則(リャン・スンチ)院長(63)に話を聞く。梁院長は以前から在宅でのみとりや緩和ケアに力を入れている。1992年に発足した日本ホスピス・在宅ケア研究会の副理事長でもある。
クリニックでは現在、外来と訪問診療を手掛ける。訪問では自宅やグループホームなどで生活する約220人を診ている。年間に50人ほどをみとり、その4割は重度の認知症という。がんなどの病気に認知症が重なることも多い。
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認知症が進んでも住み慣れた場所で暮らせるのだろうか。私たちは取材を続ける中で、暴言などがひどくなると特別養護老人ホームなどに入っても退去させられ、精神科へ入院するケースがあると聞いた。それが、地域で暮らし続けることを難しくしている、とも。
梁院長に尋ねると「暴言や暴力といった周辺症状を緩和できれば、その場所で暮らし続けることができるんです」と教えてくれた。「人によって投薬の量を微調整すれば、それが可能なんです。ぼくは在宅でみとるドクターなので、みとりきることが役割なんですよ」。そこまで話し終えると、「今ね、こういう施設をやってましてね」とパンフレットを取り出した。
クリニック近くにある「サービス付き高齢者向け住宅」のものだ。施設の名前は「ルミエールしかまつ」という。
入居者は個室で生活し、介護保険サービスや訪問診療を受ける。認知症の人を積極的に受け入れ、ほかの施設を退去させられた人も暮らしている。もちろん、みとりも行う。
「その地域に暮らしていた人が、地域を離れずに最期を迎える。屋上に上ったら、そこから自分の家の屋根や知ってる場所が見える。そういう環境なら、人生の連続性として、『イエス』と言える最期なんじゃないかなあ」
入居者は地元の須磨や長田区の人が多いという。梁院長が続ける。「認知症の末期になって、住み慣れた場所からどっか病院へ、というのはつらいじゃないですか」
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ルミエールしかまつ。どんなところだろう。私たちは施設の扉の前に立ち、インターホンを押した。
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