私たちは神戸市長田区にあるサービス付き高齢者向け住宅「ルミエールしかまつ」を訪れていた。認知症の人を積極的に受け入れる施設だ。須磨区の林山クリニックの梁勝則(リャン・スンチ)院長(63)が理事長を務める医療法人社団「林山朝日診療所」が運営している。クリニックの近くにあり、2015年12月にオープンした。
「入居者の中には、ほかの施設で暮らせなくなった人も多いですね」。介護部門を担当する理事の川勝通子さん(51)が施設を案内してくれる。暴言や暴力がひどくなると、特別養護老人ホームやグループホームを退去させられることがある。そんなとき、次の受け皿が地域の中にあれば安心だろう。
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1階は重度、2階は軽度の認知症の入居者が、ホームヘルプサービスなどを受けながら生活する。39室あり、みとりも行う。これまでに30人が施設で息を引き取った。
長い廊下に沿って部屋が並ぶ。ドアの色は、入居者が自分の部屋だと認識しやすいように、少しずつ違う。
2階の部屋を見せてもらう。10畳ぐらいの広さでトイレも付いている。高台にあるので眺めがいい。窓の外に目をやると、住宅街が広がり、遠くにポートタワーが見えた。
「世話をする家族がしんどくなり、ここで暮らすようになった人もいます。家族も悩むんですよね。ほんまに施設に入れていいんやろかって。でも認知症って、亡くなるまで続くんで、いつ終わりがくるか分からないんです。家族の心も壊れていきますよ」。川勝さんが家族にも及ぶ認知症のつらさを教えてくれる。
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1階に下りると、昼食が始まっていた。牛丼とみそ汁、タケノコのたき物などが並び、十数人がテーブルに分かれて食べている。
「いろんな人がいるんですよ」と川勝さんがほほ笑む。壁にある電気のスイッチを分解する男性、いつも口に手を入れている女性…。大声を出す人もいる。認知症と一口に言っても、本当にいろいろな症状があると思わされる。
それにしても、どうして、認知症の人を積極的に受け入れることになったのだろうか。「そうですねえ、きっかけの一つは…。ほら、あそこでご飯を食べてる女性」
川勝さんが示す方向に目をやると、窓際に白髪の女性が座っていた。
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