相生市南部の相生(おお)地区にある賃貸住宅「もくれんの家」の庭で、月1回の「いきいきサロン」が開かれていた。認知症がある入居者に加え、地域のお年寄り約30人が集まった。
傘踊りや三味線を披露し、炭坑節に合わせてみんなで踊る。人一倍笑顔だったのは「もくれんの家」で暮らす出家(でいえ)サツキさん(90)だ。「楽しいねえ。ふるさとの味がする」と話してくれる。
小規模多機能型居宅介護事業所「さくらホーム おおの家」のスタッフとともに、月1回のサロンを企画するのは地域の女性グループだ。開催日の前日になると、1人暮らしの住民に声を掛けて回る。
代表の八木和美さん(79)が言う。「『行くわ』って言ってた人が来てなくて、また誘いに行ったら『何のこと?』って。軽い認知症やね。そんなこともあるので、どんどん集まる場をつくって、仲間をつくって元気にならな」
サロン以外にも、お酒を楽しむ「紳士達の夜の集い場」を月1回開く。“仕掛け人”は「おおの家」の施設長で、「ふみちゃん」と親しまれる羽田冨美江さん(63)だ。理学療法士でもある。
「認知症の人や体が不自由な人が、地域で住民として暮らしていけるまちをつくりたいんよ」。縁側に腰を掛け、羽田さんが話し始める。
相生地区で生まれ育ち、結婚後は広島県福山市の病院に勤めた。義父の介護を機に15年前、福山で小規模多機能型居宅介護事業所「鞆の浦・さくらホーム」を開いた。
脳梗塞を患った義父は半身まひになり、気を落として家から出なくなった。だが、秋祭りの準備に顔を出したとき、「どうしたらいい?」と声を掛けられたことで気持ちが一変する。「わしがやらんと」と、やる気になった。
「地域に受け入れられることは生きる意欲になるんですね」。羽田さんは2008年、地域密着を掲げて故郷で「おおの家」をつくった。
話を聞いていると、縁側を爽やかな風が抜けていく。
「超高齢化はおもしろいよ。1人暮らしが多くなると、周りがお節介になるから。わがことになるから。そうなれば、地域に変化が起きてくる」と羽田さん。
そうなれば、人と人がもっとつながる。「これからますますおもしろくなるよ」
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