東京都小平市にある「ケアタウン小平」を訪れた私たちは、1階のデイサービスセンターで岡安雄さん(76)に出会った。エプロンとバンダナを着け、利用者の昼食を準備していた。
ケアタウンでは地域住民ら約100人がボランティアで、デイサービスのほかグラウンドの芝生の手入れなどを手伝う。岡さんはその一人だ。
ボランティアは、まず妻の恵子さんが始めた。「私は退職後、趣味の絵画ぐらいしかしてなかったから、妻が声を掛けてくれたんだろうね」。岡さんが懐かしそうに言う。
恵子さんは昨年1月、長年暮らした自宅で亡くなった。67歳だった。
恵子さんは大腸がんが肺に転移していたが、最後まで「家にいたい」と望んだ。自宅マンションはケアタウンから歩いて数分のところにある。ケアタウンの在宅専門クリニックに訪問診療を頼んだ。
クリニックの山崎章郎(ふみお)医師(72)がやってくるようになり、痛みがあれば医療用麻薬で取り除いてくれた。在宅なので自由はある。体調のいい日は酸素吸入用のボンベを持って、夫婦で買い物や食事に出掛けた。亡くなる3日前には、長男と長女、孫が集まって食事をした。「翌日も僕が作った料理を食べ、好きな音楽を聴いていました」
人生の終わりが近づく中、恵子さんの望んだ暮らしが続いたのだろう。穏やかな最期だった。岡さんの隣で寝ていた恵子さんの息が、いつの間にか止まっていた。
「山崎先生が痛みで苦しまないようにしてくれた。患者だけでなく、一緒に住む家族のケアにもつながっていると思ったね」
岡さんは1人暮らしになった。日々の中で、ケアタウンの存在が大きくなっていくのを感じるという。
「これからどうなるのか不安はあるけど、認知症になってもここのデイサービスが利用できるしね。ケアタウンがあることが、地域に住み続けられる安心感につながっている」と顔をほころばせる。
ケアタウン小平の開設から14年。山崎医師たちは、自宅での最期を望む約千人の患者と家族を支えてきた。
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