東京駅から電車とバスに1時間ほど揺られ、閑静な住宅街の停留所で降りる。私たちは東京都小平市にいる。しばらく歩くと、学校のような3階建ての建物が見えてきた。「ケアタウン小平」だ。
1階には在宅医療専門クリニックと訪問看護ステーション、デイサービスセンターが入っている。2、3階は賃貸住宅の「いつぷく荘」で、21部屋に1人暮らしの高齢者や夫婦が暮らす。
敷地内の芝生のグラウンドで、小学生ぐらいの男の子2人が遊んでいた。利用者や入居者だけでなく、地域の人も自由に出入りできる。
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クリニックで、院長の山崎章郎(ふみお)医師(72)に話を聞く。山崎医師は1994年、小平市の隣、小金井市にある病院で独立型のホスピス棟をつくった。そこで「ずっと家にいたかった」という患者の声をよく聞いたという。
どうすれば願いをかなえられるのだろう。ヒントを探そうと、2001年10月から休職し、東南アジアのホスピスや福祉国家として知られるデンマークを訪ねた。
視察を重ね、たどり着いたのが「ホスピスチーム」だった。医師や看護師が連携し、終末期の患者の自宅で診察する。こうして05年、ケアタウン小平が生まれた。
1階に医療施設、2、3階に住宅。周辺に住む人たちも訪問診療の対象に入れた。「在宅医療はチームワークが大切。拠点があれば医師と看護師が直接やり取りでき、患者のニーズに近づけます」。山崎医師が力強く言った。
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クリニックを出た山崎医師が「いつぷく荘」の一室を訪ねる。竹下正義さん(83)、百合子さん(72)夫妻が住んでいる。2人とも幼い頃に結核を患い、正義さんは肺の機能が落ちているそうだ。
山崎医師が正義さんの血圧を測る。体調を尋ねた後、「これで終わりますね」と声を掛け、力強く手を握った。
なぜ手を握ったのですか? 部屋を出た後、そう尋ねる私たちに山崎医師が笑って答える。「いつも最後はみんなと握手するんだよ。『あなたは私と、ちゃんとつながってますよ』っていう思いが伝わるじゃない」
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