私たちは滋賀県東近江市の旧永源寺町にいる。広い空に鈴鹿山脈。鳥のさえずりが耳に心地いい。
人口は約5200人。郵便局や信用金庫が並ぶまちの中心部に、3階建てのコミュニティーセンターがある。その一室に、介護施設の制服を着た女性や市役所の職員ら30人ほどが集まった。医療や介護の専門職に民生委員やボランティア、住民も加わった「チーム永源寺」の会議だ。
何か特別な話し合いが持たれるわけではない。いざというときに助け合えるよう、月に1回、顔を合わせる。
◇ ◇
この日の会議は40分ほどで終わった。大半の時間を割いて、作業療法士の男性が運動習慣の大切さを説いた。
終了後、参加者同士がしばらく立ち話を続ける。輪の中に、よく日焼けした男性がいる。センターのそばにある東近江市永源寺診療所所長の花戸(はなと)貴司医師(49)だ。
「地域のボランティアや民生委員と、僕ら医療や介護関係者の間にはどうしても壁ができてしまう。でも普段から顔の見える関係だと、何かあってもすぐに連絡し合えるわけです」と教えてくれる。
ポロシャツとジーンズ姿の花戸医師に、いつもそんなにラフな格好なのか尋ねると、もう何年も白衣は着ていないという。
滋賀県長浜市の出身で、県内の総合病院で5年ほど働き、2000年に永源寺診療所へ着任した。赴任当初は病院時代と同じように、白衣で診察し、薬を処方した。「でも、なんか違和感があって。うまくいかないなと感じていました」と振り返る。
訪問診療で地域を巡ると、その理由が少しずつ見えてきた。患者は畑に出たり、楽しそうに世間話をしたりしている。おかずを持って様子をうかがいに来る近所の人がいる。住民同士で互いを気に掛けている。
「1人暮らしや認知症の人は、医者の往診だけではカバーできないですよ。地域全体で見守り合うような関係が欠かせない。医者が、お高くとまっていてはそこに入れない。うまくいかないはずです」
◇ ◇
しばらくして、花戸医師は白衣を脱いで診療するようになった。そんな花戸医師を中心に、いろんな人が集まるようになる。住民に市職員、民生委員に介護関係者…。
こうして「チーム永源寺」が始まった。何となく、そんな流れに、という感じで。
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