認知症や終末期の人たちを支える施設や地域を取材してきた私たちの元に、メールが届きました。認知症の家族と向き合う悩みが切々とつづられています。私たちは2人の女性に会いに行きました。
「母がグループホームから退去を迫られています」。そうつづられていた神戸市北区の女性(54)の自宅を訪れると、高齢者施設の資料が積まれていました。母親(86)の入所先を探し、1カ月で10カ所を見学したそうです。
大阪市で1人暮らしをしていた母親は、2010年に認知症と診断されました。神戸市内のサービス付き高齢者向け住宅に引っ越しましたが、ある日、昼すぎに出掛けたまま、行方不明になってしまいます。約10時間後に発見されたものの、「責任を持てません」と住宅からの退去を告げられました。17年に移ったグループホームでも、他の利用者とトラブルになったり、物を投げたり…。そして、今年10月上旬に「他を探してください」と言われたそうです。
女性は、有料老人ホームや介護老人保健施設などを見て回りました。過去には精神科への入院を勧められたこともあるそうですが、「母はご飯は自分で食べられるし、トイレも自分でできる。できることがあるのに、入院は決断できませんでした。ありのままで受けいれてくれる施設があれば」と話していました。
取材から3日後、女性から有料老人ホームへの入所が決まった、とメールが届きました。「穏やかに過ごしてくれるのを願うばかりです」と書かれていました。
「自宅介護の現実は過酷(かこく)で残酷なもの。経験したら綺麗(きれい)事は言えません」。姫路市の女性(69)のメールには、そう記されていました。
2013年、夫(69)が若年性アルツハイマー型認知症と診断されました。退職して2カ月後のことでした。3年ほどで症状が悪化します。夜に叫んだり、床を何度もたたいたり。穏やかな性格だったのが怒りっぽくなり、女性は背中を蹴られたこともあったそうです。16年、夫は精神科病院に隣接する高齢者施設に入所しました。
女性は「一緒に死ぬことばかり考えていた」と涙ながらに振り返ります。介護殺人を扱うテレビ番組を見て「自分もそうなっていたかもしれないと思った」と言います。
今は週1回施設を訪ね、孫たちの写真を見せているそうです。女性を認識できているかどうかは分かりませんが、施設からは「最期までみますよ」と伝えられています。
女性は「あのつらい生活を思うと施設には感謝しかない」と言い、「主人を見送るまで元気に過ごす。それが主人のため、家族のためだと思っています」と話しました。
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