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「どの人が入居者で、どの人が地域住民で、というのが分からないのがベスト」と話す下河原忠道さん=千葉県船橋市 地域の子どもたちとふれあう入居者=千葉県船橋市(「銀木犀」提供)
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「どの人が入居者で、どの人が地域住民で、というのが分からないのがベスト」と話す下河原忠道さん=千葉県船橋市

地域の子どもたちとふれあう入居者=千葉県船橋市(「銀木犀」提供)

  • 「どの人が入居者で、どの人が地域住民で、というのが分からないのがベスト」と話す下河原忠道さん=千葉県船橋市
  • 地域の子どもたちとふれあう入居者=千葉県船橋市(「銀木犀」提供)

「どの人が入居者で、どの人が地域住民で、というのが分からないのがベスト」と話す下河原忠道さん=千葉県船橋市 地域の子どもたちとふれあう入居者=千葉県船橋市(「銀木犀」提供)

「どの人が入居者で、どの人が地域住民で、というのが分からないのがベスト」と話す下河原忠道さん=千葉県船橋市

地域の子どもたちとふれあう入居者=千葉県船橋市(「銀木犀」提供)

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 10月から11月にかけて掲載したシリーズ「いのちをめぐる物語」の第3部「つながりましょう」(全20回)では、認知症や終末期の人を地域ぐるみで支える現場を訪ねてきました。各地で出会った人たちの中から、地域とのつながりを重視し全国的に注目されるサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀(ぎんもくせい)」の下河原忠道さん(48)=千葉県=と、団地の一室を利用したユニークな小規模多機能型介護事業所を運営する「ぐるんとびー」社長、菅原健介さん(40)=神奈川県=のインタビューをお届けします。

 -「銀木犀」には駄菓子屋があり、1階の食堂や談話室はすべてオープンです。誰でも自由に出入りできるようにしたのはなぜですか?

 「2011年に高齢者住宅事業を始めたころ、入居者から『子どもたちに来てほしい』と言われたからです。まさか、こんなにたくさん来るとは思いませんでしたが。子どもたちは学校が終わる午後3時以降に来て、お菓子を買ったり宿題したり、ゲームをしたり。千葉県浦安市の『銀木犀』には、土、日曜日だと200人ぐらい来るんですよ。赤ちゃんを抱っこしたママも1階の食堂でお弁当を広げたりして、好きに使っています。入居者のためと思ってスタートしましたが、今は地域のための方が強くなってきたかも。子どもの遊び場がないとか産後のストレスとか、大問題です。施設をどんどん使い倒してほしいです」

 -以前は違ったそうですね。

 「最初は出入り口に鍵をかけていました。そうしたら、認知症がある入居者の男性が2階の窓から出ようとしたことがありまして。カーテンをつたって、窓から降りようとしたんです。消防隊が出動する騒ぎになりました。それで、その男性に『なんで?』って聞いたら、『だって、おめえらが玄関の鍵しめてるからだろ』って言われて…。その時に気付いたんです。僕は自分のリスクばかり考えてたって。よく考えたら、家の中に閉じ込めて鍵かけるってとんでもない。それでオープンにしたんですよ」

 -1人で外出して、はいかいする入居者はいませんか?

 「いますよ。そんなときは介護職のスタッフが一緒についていきます。歩いて行くうちに引き返せなくなる人もいて。でも介護職がうまく話をして、一緒に帰ってきますよ。笑顔で」

 -入居者の9割が認知症だそうですね。

 「認知症というと暗い話題ばかりで、認知症の当事者も『自分も偏見を持っていた』と言います。でも、認知症がある人は何もできない人じゃない。そういう社会的な心理環境を変えていくのに、大げさな理念はいらないと思っています。必要なのは人と人とのコミュニケーション。認知症の人が社会に出て、目に見える、手にふれる、コミュニケーションできる距離にいる。そうやって、地域の人たちと交わる機会を増やしていくしかないと思っています」

 -子どもたちはどうですか。

 「子どもたちは認知症がある人と交わることで、『この人に何かが起きてるんやな』と感じ取ります。認知症がある人が地域社会に存在すると学びます。実際に会うと、子どもたちは『普通じゃん』って言うんです。そして『そっかー』って、家に帰っていきます」

 「認知症があってもなくても、元気に笑って、1人の人間なんだと腑(ふ)に落ちる。人と人とのコミュニケーションの中でしか、『そっかー』と体感する瞬間は得られません。僕はそういう機会を作りたい。だから、銀木犀は1階を開放しているんです」

 -千葉県船橋市の銀木犀では豚しゃぶ店が併設され、入居者が働いています。仕事に着目したのはなぜですか?

 「入居者が『暇だ、暇だ』と言うので仕事を作っちゃおう、と。働きたい人は働けばいい。高齢になっても認知症があっても、働ける希望があることが重要だと思います。今は4人が野菜を取り分けたりしています。できないことがあっても、それにはちゃんと理由があります。スタッフが合理的なサポートをすれば失敗はしません。成功体験の積み重ねが重要だと思います」

 「僕は、生きがいとか役割とかの上位にあるのが、仕事だと考えています。仕事には、責任を果たすというハードルを越える刺激がある。そういう刺激が特に高齢者には少なくなっていて、それが閉塞(へいそく)感の元凶のようにも思います。いくつになっても仕事をしている人は輝いていると思いませんか? 高齢者が働いている施設ということで、イギリスからも視察がありましたよ」

 -そもそも、下河原さんが代表を務める「シルバーウッド」は建築関係の会社です。なぜ高齢者住宅の運営を始めたのですか?

 「ある地主に『高齢者住宅の時代ですよ』と勧めたら、『自分でやってみろよ』って言われたからです。甘くみていました。始めてみたら認知症だの、2階から飛び降りるだのいろんなことがあって、これは本腰を入れてやらなあかんと思いましたね。一番最初の入居者は看護師だった女性でした。その人は病院に行かずにここで死ぬという意志が強く、彼女をみとった経験が大きかったです。金もうけに走ってきた僕が高齢者住宅を通じて、人が生きるということを学ばせてもらいました」

 -今、新たにやりたいことは?

 「旧態依然とした高齢者施設を壊したい、と思うんですね。今、考えているのは、高齢者だけが集住しないモデル事業です。高齢者に障害者、学生、単身赴任のお父ちゃんとかが一緒に暮らす。おばあちゃんと学生が仲良くなったら、自然な助け合いが生まれて介護保険を使わなくていい、とか…。僕はビジネスマンで、新しい道を開拓するのが仕事です。全国でビジネスをやっている人たちが福祉の要素をちょっとのせてくれたら、社会は激変すると思いますよ」(聞き手・中島摩子)

     ◇     ◇

【サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」】 建築関連会社の「シルバーウッド」(千葉県浦安市入船、下河原忠道代表)が2011年から運営する。現在は千葉県内に8カ所、東京都内に2カ所。入居には要介護認定が必要。今年5月には、新たに「銀木犀 船橋夏見」(千葉県船橋市夏見)をオープンさせた。3階建てで59室あり、1階に訪問介護事業所を併設する。在宅療養支援診療所の医師が往診し、24時間対応。1人部屋の場合、家賃や食費、生活支援サービス費など合わせて月額18万9500円~24万9500円。入居時にかかる費用はなし。

2019/12/4
 

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