私たちは相生市南部の相生(おお)地区を訪れている。高齢化率は50%を超え、小学校の全校児童は40人に満たない。
空き家が目立つ住宅街の中に、大きなモクレンの木が目印の高齢者向け賃貸住宅「もくれんの家」がある。
木造の平屋。近くの小規模多機能型居宅介護事業所「さくらホーム おおの家」を運営する会社が空き家を改修し、2010年に利用を始めた。ここに認知症がある男女4人が暮らす。
◇ ◇
10月中旬、私たちが「おおの家」を訪ねると、施設の前で週1回のリヤカー販売が開かれていた。地域の買い物不便を解消しようと、野菜やパン、花を売っている。
「いらっしゃいませー」。笑顔で接客していたのは、もくれんの家で暮らす出家(でいえ)サツキさん(90)だ。スタッフに「看板娘やねー」と冷やかされている。
造船所に勤めていた夫と、3人の子どもを育てた出家さん。4年ほど前から認知症の症状が現れた。その後、身の回りの世話をしていた夫ががんで体調を崩し、入院してしまう。夫の退院を機に夫婦で移り住んだのが、おおの家だった。昨春、出家さんは夫をみとると、もくれんの家に入った。
接客中の出家さんが、私たちに「店番は素人やけど、おもしろい」と話してくれる。
美容院を営む女性が買い物にやって来た。出家さんがカットに行くと「気持ちが明るくなるから」と言って、爪もきれいにしてくれるらしい。いつの間にか、ご近所さんの女性が店番に交ざっている。顔見知りという出家さんは「みんな、しゃべるばっかり」と笑顔だ。
少し離れたところで、「おおの家」のスタッフで理学療法士の渡部政弘さん(38)が目を細めていた。「住まいって建物だけじゃなく、人とのつながりなんですね。理解してくれる人がいるから住み続けられる。だから、地域とつながりたいんです」
◇ ◇
もくれんの家には出家さんのほか、80代の男女3人が暮らしている。みんな認知症があり、物忘れだったり、火の始末や身の回りのことが苦手だったりする。洗濯は自分でして、庭の草引きもする。
常駐の管理者はいない。どんなふうに暮らしているのだろう。私たちは、もくれんの家に向かった。
2019/11/13【募集】ご意見、ご感想をお寄せください2019/10/29
<インタビュー>下河原忠道さん 認知症への偏見変えたい2019/12/4
<インタビュー>菅原健介さん 福祉ではなく、まちづくり2019/12/4
読者からの手紙2019/12/4
(20)いろんな人を巻き込んで2019/11/19
(19)「見送るまで元気に過ごす」2019/11/18
(18)「相談すればよかった」2019/11/17
(17)「頼れる人、いません」2019/11/16
(16)超高齢化はおもしろい2019/11/15
(15)認知症「困った人」じゃない2019/11/14
(14)理解者いる場所が住まい2019/11/13
(13)最期までこの町とともに2019/11/12