廊下(撮影:アラカワ リョウスケさん)
廊下(撮影:アラカワ リョウスケさん)

「この夏解体される秋田の木造小学校。
天然秋田杉がふんだんに使われており、当時の林業・製材業の勢いを感じられる。
これほどの材料を揃える事は現代では不可能に近く、この校舎が更地になると思うと哀しさと虚しさが尽きない。」

今年の夏に解体されるという秋田県能代市二ツ井の旧切石小学校。解体前の式典に参加した「アラカワ リョウスケ」さん(@ryoarkw)が天然秋田杉がふんだんに使われた校舎がなくなることを残念に思い、撮影した校舎内の写真を投稿したところ、話題を集めました。

■校舎は秋田・能代市の旧切石小 解体前の式典に参加、建築士「今でも杉の香りが強く漂っていた」

「校舎内は今でも杉の香りが強く漂っていた」というアラカワさん。伝統建築物を主とした設計業務を行う二級建築士として活動しており、校舎を「とてつもない価値がある建築物」と絶賛します。投稿には、取り壊されることを惜しむ人たちからたくさんのコメントが寄せられています。

「コレだけのものが壊されてしまうんだね」
「これだけ立派な小学校が、木の香が残っている程の時間しか経っていないのに、もう不要になってしまったとは。地方の衰退の加速に驚きます」
「素晴らしい建造物ですよね。重要文化財申請されみてはどうでしょう!?」
「解体したとしても木材を再利用することができればいいんですが…」
「由利本荘市の旧鮎川小学校や、にかほ市の旧大竹小学校のように廃校が観光に活用されている好事例もあるのですがね…勿体ない」

明治12年に開校したという切石小学校。児童の減少により平成20年に閉校となったとか。昭和27年に建てられた現在の校舎も老朽化などにより解体されることになったといいます。多くの人たちに惜しまれているそうですが、実際どんな校舎だったのでしょうか? 今回解体前の式典に参加したアラカワさんに聞いてみました。

■当時の林業・製材業の勢いを感じられる校舎 再現困難な良質な材料がたくさん使われている

──老朽化などにより校舎が解体されることになったのですね。

「そうですね。近年は主に高齢化による地域の利用者の減少、管理する能代市が維持費用捻出が難しい、というような理由から解体の方向で話が進んだ次第です。この地域には校舎を維持するための体力はもう残っていません。住民には解体に反対の気持ちはあるものの、保存の声が上がらなかったということは金銭的にも人的にもリソースが足りないということでしょう」

──式典に参加したのは?

「関係者の友人からお誘いいただきました。解体の計画が立ち上がっていた数年前から何度か見学には伺っていましたが、今回は郷土芸能の『切石ささら』の全演目を披露するという事もあり観に行きました」

──天然秋田杉がふんだんに使われている校舎内は今でも杉の香りが強く漂っていたとのこと。これほどの材料をそろえることは現代では不可能に近いそうですね。

「はい。旧切石小学校のある二ツ井地域は林業・製材業・木工業で栄えただけあり、今では再現困難な良質な材料がたくさん使われています。特に体育館は総天然秋田杉のトラス構造(複数の三角形による骨組構造)になっており、また巨大な原木からしか製材できない※三方柾(さんほうまさ)や四方柾(しほうまさ)の材も多く用いられています。今では想像できないほど多量の大径木(だいけいぼく)がこの校舎に使われた事実を見れば、とてつもない価値がある建築物です」

※三方柾(材料の4面のうち3面が柾目という意味、四方柾も同様に4面が柾目の意味。柾目は木目のこと)

■校舎の跡地はどうなる?

──廃校が宿泊施設など観光に活用されている事例もありますが…残念ですね。解体後の跡地はどうなる?

「解体後の跡地に関しては利用方針は決まっていないようでした」

──「式典で集まった地域の方々を見てこれを後世に遺さずして何を遺すんだ、という思いが強くなりました」と投稿にリプライされていましたが、あらためて心境についてお聞かせください。

「この建物を保存・活用する体力がすでに地域にないことは理解していますし、地域住民から保存の声が上がらなかった以上仕方ないと諦める姿勢もあります。ですが、解体式典でたくさんの人々が集まった光景を見てこの校舎を次の世代につなぐことができないという損失は今を生きるわれわれ世代全員の責任だな、と感じました。

地域の歴史的・産業的な価値を示すシンボルとしてこれほど強力なものはありません。せめてこの地にこんなに素晴らしい建築物が存在したという記録と記憶が遺るよう心から願います」

校舎の解体後の跡地利用について、能代市教育総務課に聞いたところ、「決まっていない」とのことでした。

アラカワさんは、自身の事務所を拠点に古き良きいにしえのモノ(ハードウェア)である伝統建築や音響機器などの修理・保存・活用を通して次の世代につなぐ活動をしています。解体後の木材について「せめて部材だけでも譲渡または販売していただけると救われます」と話してくれました。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)