長年勤めた会社で念願の課長に昇進したAさんは、部下を大切にし風通しの良いチームを作りたいという思いを抱いていました。彼が信条としていたのは「同じ釜の飯を食う」という言葉で、共に食事をすることで役職を超えた信頼関係を生み出そうという考えでした。
そこでAさんは、週に1度、部下を数人ずつ誘ってランチミーティングを実施しようと考えます。費用はもちろんAさんのポケットマネーです。普段なかなか話す機会のない部下の近況を聞き、仕事の進捗や困っていることがないかを確認する良い機会だと考えていました。
当初は部下たちもランチをおごってもらえるとして、喜んで参加していたのですが、2ヶ月ほど経過したころ、部下から不満の声があがるようになります。ある部下は、ランチミーティング自体は課長とのコミュニケーションの機会としてありがたいものの、そこで交わされる会話の多くが仕事の進捗確認や課題点の指摘であり、「食事中も気が休まらない」と話します。
もしランチタイムに仕事の話をするのであれば、それは業務の一環と捉え、その分の休憩時間を別途確保してほしいと言う部下もいました。良かれと思って続けてきたランチミーティングは業務扱いとするべきなのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞きました。
■ランチを一概には否定できないが問題点は…
ー休憩時間の定義とはどのようなものですか
休憩時間とは、労働基準法で定められている、労働者が労働から完全に解放され自由に利用できる時間です。労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければならないとされています。
この時間は「労働から完全に解放されている」点が重要であり、「休憩時間は自由に使える」のが大原則です。電話番をしながらの休憩や、来客対応をしながらの休憩、上司の指示を待っている状態(手待ち時間)などは、休憩時間とは認められません。
ーランチの時間にミーティングに潜む問題とは何ですか
一緒にランチに行って、今までの経験談や社会人としての心構え等を話す程度であれば、仕事とはみなされない可能性が高いです。しかしAさんが開催したミーティングのように、進捗確認や課題点の指摘など業務に関する具体的な話し合いがおこなわれた場合、業務指示や報告の場と認識されても仕方ありません。休憩時間ではなく労働時間と判断され、会社は別途休憩時間を与えるか、場合によっては残業代を支払う義務が生じる可能性があります。
また従業員が自由に使えるべき時間を「業務打ち合わせ」として拘束してしまっているのも問題です。休憩時間という本来リラックスすべき時間に仕事の話を持ち込むことで、部下に緊張感を与え本音を引き出しにくくする可能性も否定できません。
完全に任意参加で仕事の指示命令もなく、和やかな雰囲気で雑談を楽しむような形であれば問題視されないでしょう。ただ本ケースのように定例化され、業務の話題が中心となる場合は、休憩時間のあり方として適切ではないと考えます。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)