社内ベビーブームを実感するようになったのは、約5年前から。若手社員の採用が増えたことがきっかけという(photoACより「kinahan」さん撮影、イメージ画像)
社内ベビーブームを実感するようになったのは、約5年前から。若手社員の採用が増えたことがきっかけという(photoACより「kinahan」さん撮影、イメージ画像)

少子化が加速するなか、秋田県の小さな酒蔵で“社内ベビーブーム”が起きている。社員わずか20数名の「山本酒造店」では、過去5年間で約10人の新生児が誕生。社員の赤ちゃんが職場にお披露目に訪れる光景も珍しくなく、SNSでの投稿が話題を呼んだ。地方企業が実践する「子育て応援」の取り組みとは──。

秋田県八峰町にある「山本酒造店」は、白神山地の麓にある人口6000人の港町に拠点を構える酒蔵だ。社員数は20名余りと小規模ながら、過去5年間でおよそ10人の赤ちゃんが誕生。「少子化が進むと言われていますが、当社のベビーブームはまだ続いています」と投稿したX(旧Twitter)の発信が注目を集めた。

投稿主は、山本酒造店の代表である山本友文さん(@shirataki1901)。投稿には「社員の赤ちゃんを職場にお披露目に来てくれた」「御祝として10万円を贈呈」などと綴られ、多くの人から「素敵な取り組み」「応援したい」といった声が寄せられた。

■始まりは“若手社員の増加”から

社内ベビーブームを実感するようになったのは、約5年前から。若手社員の採用が増えたことがきっかけだったという。それに合わせて、会社独自の「子供手当」制度もスタートした。

「小学1年生から高校卒業まで、子ども1人あたり月額1万円を支給しています。目的は“生活費の足し”というより、部活動や習い事にかかる費用を会社がサポートすることで、“子どもにやりたいことをやらせてあげよう”という思いからです」(山本さん)

総額にすれば、子ども1人あたり144万円。中山間地域ではかなり大きな支援だ。

■制度の背景にある「町の未来」への危機感

この制度の背景には、代表の山本さん自身が抱く強い思いがある。

「私が通っていた保育園や小中学校はすでに廃校になっています。高校も統合の話が出ています。このままでは町が消えてしまうのではないかと危機感を抱きました。だからこそ、せめて自分の会社だけでも“子どもを産み育てやすい場所”でありたいと考えたのです」

制度はあくまで会社の判断でスタートしたもので、社員からの要望があったわけではないという。

「社員には、1日のうち少なくとも8時間を過ごす職場で、できるだけストレスなく楽しい時間を過ごしてほしい。だから役職も廃止して、風通しのいい職場づくりをしてきました」

■独身者や子どものいない社員との“公平性”は?

子育て支援制度を導入する際、話題になりやすいのが「公平性」の問題だ。実際、投稿へのリプライにも「独身の人はどう感じているのか?」という声が寄せられた。

これについて山本さんはこう答える。

「田舎で暮らしていれば、誰もが少子化の実感を持っています。不公平と感じるのは、都会的な発想かもしれません。もし不満があるなら、手当てのない会社に転職してください、というくらいのスタンスです(笑)」

■「若者が戻ってこられる場所に」

山本酒造店の今後のビジョンは、「若者が誇りを持てる会社」づくりだという。

「秋田のような地方には、若者が勤めたいと思える会社は少ないし、大学も少ない。だからみんな都市部に出ていきます。でも“一度外に出ても戻って来られる場所”があれば、町に活気が戻ると思うんです」

「社員みんなが笑顔で楽しく働ける環境づくり」が、めぐりめぐって地域全体を元気にする。そんな信念が、秋田の小さな酒蔵から、いま確かに広がっている。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)