映画「宝島」に主演した妻夫木聡さん。キャンペーンで全国を飛び回っている=大阪市内
映画「宝島」に主演した妻夫木聡さん。キャンペーンで全国を飛び回っている=大阪市内

アメリカ統治下にあった戦後沖縄を舞台に、米軍基地から奪った物資を住民らに分け与える“戦果アギヤー”と呼ばれる若者たちの熱い生き様を描いた映画「宝島」が9月19日から、全国公開される。原作は、作家真藤順丈さんによる同名小説。戦後沖縄の知られざる史実を圧倒的な熱量で描き切り、第160回直木賞に輝いた。主人公グスク役の妻夫木聡さん、幼馴染のレイを演じた窪田正孝さん、そして数々のヒット作を手がけてきた大友啓史監督が大阪でインタビューに応じた。 

■原作に込められた熱量をそのまま映像化

ー映画化に際して一番大事にしたことは 

大友監督 「アメリカ統治下の沖縄のことはあまり知られていません。原作には、沖縄の人たちが味わった不条理や、私たちが想像もできなかったようなことがこれでもかと書かれている。優しくて穏やかなイメージがある彼らの、あの時代を経験してきたからこその強さ、反骨心、負けない気持ち…。原作に込められた熱量をそのまま映像化したいと思いました」 

ーオファーを受けて 

妻夫木「かつて自分が主演した映画『涙そうそう』(2006年)も本作と同じく沖縄のコザという街が舞台で、その時から仲良くしている親友もたくさんいます。同じ街を舞台にした映画をオファーしていただける機会なんてなかなかないので、少し運命的なものを感じましたし、あらためて沖縄と向き合うきっかけにもなりました。大友監督が原作を手に取ったこと、そして主人公として僕を思い描いてくださったこと…その全てがタイミングであり、奇跡的な巡り合わせです。本当にありがたいことだと思っています」 

窪田「自分は『役者にとっては台本が全て』だと考えていることもあり、原作はあえて読んでいないんです。ただ、本作に関しては企画書の段階からすごい熱量、たぎるようなメッセージを感じました。脚本を読むと、コザのゲートが…とか、嘉手納基地が…など、すごいスケールのことが書かれていて、『どこまで映像化するんだろう、どうやるんだろう』と思いましたが、まあ大友さんだからやっちゃうんだろうなと(笑)。“一参加者”として純粋に楽しみにしていました」 

■役者馬鹿vs役者馬鹿

ー共演相手として、互いにどんな刺激を受けたか 

妻夫木「窪田くんと同じ作品に出演したことはありますし、プライベートでも交流はあるのですが、ちゃんと共演するのはこれが初めて。芝居に対して本当に真摯な人です。悪く言うと“役者馬鹿”(笑)」 

窪田「その言葉、そっくりそのまま返しますよ(笑)」 

妻夫木「演じている役のことしか見えなくなっちゃう人で、僕にとってはそこが信用できるところでもあります。複雑な思いを抱えてヤクザの世界に身を投じるレイは難しい役だったと思いますが、窪田くんがやるからこその説得力を持って、レイの痛みや苦しみ、悲しみ、全てを表現してくれました。最後にレイとグスクが対峙する基地のシーンでは、レイの人生、レイとグスクが歩んできた歴史が本当に走馬灯のように見えた瞬間がありました。それは間違いなく窪田くんが演じてくれたから、脚本に書かれていること以上のリアリティが生まれたのだと思います」 

窪田「妻夫木さんは役者の大先輩ですが、それ以前に、周りにたくさんの人がいらっしゃる方だという印象です。スタッフさん、役者さん、エキストラさんなど、立場に関係なく誰とでも分け隔てなく接することのできる、他人との境界線が全然ない人。そういう人柄が、グスクのキャラクターにもすごく反映されていると感じます。妻夫木さんが相当なプレッシャーを一身に引き受け、大きな柱として存在してくれたからこそ完成した映画です。逆に言うと、妻夫木さんじゃなかったら、ここまでの作品にならなかったかもしれません」 

ークライマックスでもあるコザ暴動のシーンについて 

妻夫木「沖縄と米兵の間にいるグスクは“バランサー”的な存在だったと思うんです。平和に向けてなんとか事態を収拾したいが、どちらに転ぶかわからないという紙一重のところにいた。自身も痛みを受けながら必死に前を向こうとしてきた…そんな俺にも我慢の限界があるぞ、というシーンですよね。今まで我慢してきた『俺』というのは、つまり『沖縄』のこと。言葉に尽くせない複雑な感情の入り混じった演技は、考えてできることではなく、あの表情、台詞は『出ちゃった』としか言いようがありません」 

■沖縄の「声なき声」を届けたい

ーNHKの駆け出しディレクター時代から、大友監督は「声なき声を届けるのがジャーナリストの役割」を信条にしている 

大友監督「初任地の秋田で、当時の放送部長から『俺たちの仕事は声にならない声を届けることだ』と言われたことがずっと心に残っている。それは報道に限らず、僕がこれまで手がけてきた『龍馬伝』などのフィクションにも通底しています。今回の『宝島』ももちろんそう。調べれば調べるほど、アメリカ統治下時代の沖縄では、家族で団欒中に酔っ払った米兵が乱入してきて…みたいな信じられないことがたくさん起きている。沖縄にはそんな『声にならない声』が渦巻いていて、だからこそ発される時にすごい熱量を帯びる。僕も初心に返り、思い残すことのないように全力でやらないといけないなと思った最たる仕事。この成果、メッセージが多くの人に届くよう願っています」 

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映画「宝島」は9月19日全国公開 (Ⓒ真藤順丈/講談社 Ⓒ2025「宝島」製作委員会)

(まいどなニュース・黒川 裕生)