未来の教育は、どう変わっていくのか? そのヒントを探るべく、最先端のXR技術やAIの活用について討論する「Metaverse Japan Summit 2025@Osaka」が9月4日になんばパークス・eスタジアムなんば本店で開催された。
中でも注目を集めたのは、教育現場にメタバースをどのように活かすかを探るセッション「メタバース×教育」。新しい学びの形と可能性について討論され、教育AI事業を起業した現役女子中学生が大人と対等に意見を交わす場面も見られた。
■未来の学びは「記憶」よりメタバースを活用した「体験」が主流になる
メタバースとは、インターネット上に存在する現実世界とは異なる仮想空間のこと。現実世界を超える体験をしたり、コミュニケーションを通じて経済活動を行ったりできる。利用者は、3Dで構築された空間内で自身のアバターを操作して自由に動き回らせることができ、他のユーザーと交流したり商品やサービスを売買したりできる。
セッションの登壇者は、一般社団法人「Metaverse Japan」代表理事・馬渕 邦美氏をはじめ、中学2年生のときに教育AI事業「EdFusion」を起業した現在中学3年生の近藤にこる氏、メタバースを活用した社会課題解決に取り組む松石和俊氏(株式会社Meta Heroes 代表取締役)、公立中高一貫校の校長として教育改革を進める生井秀一氏(リモート参加)、ゲームを通して職業体験の場を創出する江畑翔吾氏(株式会社Meta Osaka プロジェクトマネージャー)と、起業家、教育者、現役世代まで多様な顔ぶれが揃った。
セッションはブースの中で行われ、観覧者はそれをガラス越しに見るという変わった形式で行われた。
特に強調されたのは、未来の教育は従来の「記憶型」ではなく「体験型」へシフトしていくだろうという考え方だ。メタバースは、家にいながら海外の人とつながり、グローバルな交流や経済活動に参加することもできる。これにより、身体的な制約がある子どもや地方に住む子どもでも、質の高い教育の機会を得られるようになる。
そのための強力なツールとしてメタバースが活用され、現実世界で体験することが難しいことも、仮想空間では可能になるという。
例えば、江畑氏は東京消防庁に2年半勤務した経験を活かして、ゲームプラットフォーム「Roblox」上にバーチャル消防士体験を開発。これは消防士の消火活動を体験できるゲームで、火災現場でどのように行動すべきか、ゲームを通じて体験的に学ぶことができる。江畑氏は開発の目的として「火の消し方よりも、安全に避難する方法を学んでほしい。防災教育に役立てたい」と話す。
こうした取り組みは「遊び」と「学び」の境界をなくし、子どもたちの好奇心や探究心を学習のモチベーションに変えていくことが期待できる。
■子どもの視点に表れたリアルな課題
セッションでは、「大人が描く未来の学びの姿」と「教育現場のリアルな課題」との違いからくるギャップが近藤氏から指摘された。
「数学の才能に秀でていたり世界を変えるプログラムを開発したりするような、素晴らしい才能を持つ中学生が多数います。でも、現状で彼らの能力は、中学・高校の受験といった既存の教育制度の中では活かし切れていません」
近藤氏には、挑戦のきっかけとなる「体験」があり、共に切磋琢磨する仲間がいて、明確な「目標」があったから起業できたという。つまり、子どもたちの可能性を引き出すためには、才能を伸ばすための「環境」を大人が用意することが必要との考えを示した。
これを受けて生井氏も、従来のテストでは測れない主体性や協働性、課題設定能力といった「非認知能力」の育成が、これからの教育において重要な課題になると述べている。大人が描く理想像と、子どもたちが実際に直面している課題の間にギャップがあることが、セッションを通じて浮き彫りになった。
セッションが終わってから、登壇者の松石氏と近藤氏に残ってもらい、メタバース教育の普及にはどのような課題があるのかを尋ねた。
松石氏は、「大人の偏見」「予算」「ハードウェア」の3つを挙げた。
「メタバースをただのゲームとしか見ない大人の偏見は、世代間の考え方の違いから生じる大きな課題です。どれだけ実証実験をできるかが大事だと思っています」
近藤氏も同じく、大人の偏見が大きな壁になることを心配している。
「大人も一緒に学んで、意識を変えていく必要があるんじゃないかなって思います」
また、松石氏は「これらの壁は、今後2年以内に解決される可能性が高い」という展望をもっているとのこと。
「教育現場にメタバースの普及を進めるには、大人自身が変わること。まず大人が背中を見せ、環境をつくり、子どもを迎え入れることが大事なのです」
未来の学びは、大人と子どもが一緒に築き、リアルとバーチャルの両方に広げていくものであり、メタバースは、子どもたちの無限の可能性を引き出すための新しい選択肢となるだろうと感じた。教育の未来は、技術の進化だけでなく、それを受け入れて活用しようとする大人の姿勢にかかっているともいえる。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)