たまたま見つけた漫画から目が離せなくなる(C)くさかべゆうへい/小学館
たまたま見つけた漫画から目が離せなくなる(C)くさかべゆうへい/小学館

進路や将来を考えるとき、親の期待と自分の気持ちの間で葛藤することは少なくありません。漫画家・くさかべゆうへいさんがX(旧Twitter)に投稿した『最強のおばあちゃんが人生を変えてくれる話』も進路に悩む高校生を描き、大きな反響を集めています。

物語の主人公・三咲は、漫画が大好きな高校生。周囲に隠れて漫画を描いていました。ある日、移動教室で席を外した際にもう1人の主人公・三平にそのノートを見つけられてしまいます。下校時、三平が自分の漫画を読みながら歩いている姿を見かけた三咲は、ノートは自宅まで届けてくれることを期待しつつこっそりと後をつけます。しかし三咲の期待もむなしく、三平はそのまま家へ持ち帰ってしまうのでした。

家に帰った三平を待っていたのは誰もいない食卓と、置かれたお金だけ。お金を手にすると三平は、近所に住む黒い革ジャンを着た見た目が印象的な祖母の家に向かいます。三平は勉強を始めつつ、気になって三咲の漫画を読みます。実は彼自身も幼い頃は絵を描くのが好きでしたが、両親の意向で諦めざるを得なかった過去があったのです。

一方、三咲は「どうやってノートを取り返そうか」と悩んでいましたが、翌日、机の上にはノートが戻されており、「続きを読みたい」というメッセージが添えられていました。そこで三咲は勇気を出して自分の漫画ノートを三平に渡します。すると三平も影響を受けて再び漫画を描き、二人は“交換漫画日記”を始め、お互いの物語をつなげながら一緒に作品を作っていくようになるのです。

ところがある日、三平は父親に漫画のノートが見つかり、捨てられてしまいます。漫画は定年後の暇つぶしにしろという父の言葉に三平は打ちのめされるのでした。しかし、そんな絶望の淵に立たされた三平を助けたのは祖母でした。

祖母は父親が三平に渡していたお金を「ゴミ」と言って燃やすふりをし、実は大切に取っておいたお金を手渡しながら「お前の好きにしたらええ」と励まします。その一言に背中を押された三平は、大学へ行くことを止めて漫画の専門学校に進むことを決意します。これからの展開が気になる同作について、作者のくさかべゆうへいさんに話を聞きました。

■孤独な漫画を描く作業を2人で共有する『交換漫画』

ーこの漫画のアイデアはどこから? 

マンガ専門学校が舞台の作品ですが、2人が専門学校に入学する前の前日譚として描いたのがこの話です。僕自身高校を卒業するまでは、2人と同じような田舎に住んでいて、SNSなどでしか同士があまりいませんでした。絵や漫画を描くのが好きな友人はいたのですが、それでも本気で漫画家を目指している人はいなかったと思います。

ーおばあちゃんの存在が物語にとても良いスパイスになっていました。

漫画を描いたことがない蒲田に影響を与える存在として、荒川さんだけだとまだ子供なのでその先まで(東京にいって専門学校に入る)導いてくれる大人が必要だなと思い、おばあちゃんを出しました。結果、誰よりもキャラの強い人になってしまいました(笑)とても描いてて楽しいキャラです。

ー漫画をそれぞれが描くのではなく、一つの物語を一緒に作り上げていく形にした理由は?

漫画を描くというのはとても孤独なものなので、2人で共有することで漫画を描くことの楽しさを実感してもらいたくて交換漫画にしました。感想をもらえてうれしいなど。2人のやりとりを通してキャラの個性を読者に知ってもらいたいという狙いもあります。この青春な感じはこれからの2人の人生のかなり大きなポイントになるかなとも思います。

ー読者に一番伝えたいテーマは?

マンガの専門学校がどのようなところなのかを知ってもらえるとうれしいなと思います。専門学校は行っても行かなくても漫画家は目指せますが、僕自身、専門学校に通っていたことが無駄ではなかったと思っているので、専門に行くことを選んだ人たちの話をできるだけポジティブに描こうと思っています。専門学校、キャラクターなどなんでも楽しんでもらえたらうれしいです。

(海川 まこと/漫画収集家)