残業をしないけど仕事を完璧にこなす→評価が標準なのはなぜ? ※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)
残業をしないけど仕事を完璧にこなす→評価が標準なのはなぜ? ※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)

Aさんは効率を重視し、毎日定時で帰ることを信条としています。就業時間中は驚くほどの集中力で、誰よりも早く正確に業務を完了させます。上司から残業を依頼されても、「今日の業務は完了していますので」と明確な理由を述べて断っていました。

対照的に同期のBさんは、毎日遅くまで残業し、上司の急な依頼にも嫌な顔せず対応するタイプでした。そんな2人は半年後の人事評価で、衝撃的な結果がもたらされます。

完璧な成果を出していたはずのAさんの評価が「標準」だったのに対し、Bさんの評価は「期待以上」という高評価だったのです。納得がいかないAさんが上司に理由を尋ねると、「B君はチームが大変な時に、いつも率先して残ってくれる。その貢献度は大きい」という答えが返ってきました。Aさんの成果は認めつつも、チームへの貢献という点で評価に差をつけたと説明されたのです。

自分の仕事は完璧にこなしているのに、残業をしないだけで評価が下がるのは納得できません。残業を断り続けることはそんなに悪いことなのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに聞いてみました。

■残業の有無だけで評価するのは不適切

ー法律上、従業員はどの範囲まで残業を拒否する権利がありますか?

会社が従業員に残業を命じるには、「36協定」の締結・届出と就業規則に残業命令の根拠規定が必要です。これらの条件が満たされ、業務上の必要性がある場合、従業員は原則として残業を拒否できません。

ただし、「正当な理由」がある場合は拒否が認められ、健康上の理由や育児・介護などが該当します。「プライベートの予定」だけでは正当な理由と認められにくいですが、会社が恒常的に残業を命じることは「命令権の濫用」と見なされる可能性があります。

ー人事評価において、残業の有無が評価に影響することは、法的に問題ありませんか?

残業を断り続ける若手社員の評価について、単に「残業をしなかった」という理由だけで評価を下げることは違法と判断されるリスクがあります。特に育児や介護が理由の場合は法律で禁じられています。

ただし、「チームへの貢献」が評価項目に含まれる場合や、そもそも雇用契約で定められた職務にチーム全体の目標達成が含まれている場合は話が別です。その場合、自分の担当業務だけを終わらせても、チームが緊急の課題を抱えている状況で協力を拒否すれば、契約上の「自身の仕事」を十分に果たしていないと評価される可能性があります。その結果、個人の成果は認められつつも、「協調性」や「チーム貢献度」の項目で評価が低くなることは十分に考えられます。

重要なのは、評価基準が残業時間ではなく、あくまで「業務上の成果やチームへの具体的な貢献」であることです。上司の主観で「残業しないからやる気がない」と評価するのは不当評価と言えるでしょう。

ー残業の有無で、昇進や昇給、ボーナスに実際に差がつくケースは多いのでしょうか?

法律の建前としては、評価は成果に基づいて行われるべきであり、労働時間の長さで差をつけるべきではありません。時間内に高い成果を出す社員こそが、本来は高く評価されるべきです。

しかし、実態としては、残念ながら差がつくケースはゼロではありません。特に、年配の管理職の中には、エピソードの上司のように「遅くまで残って頑張っている姿」を貢献意欲の表れとして高く評価する価値観が根強く残っている場合があります。

ただし、近年の働き方改革の流れの中で、こうした風潮は少しずつ変わりつつあります。長時間労働を是正し、生産性の高い働き方をする社員を正当に評価しようという動きが、先進的な企業を中心に広がってきています。

◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士/こころ社労士事務所代表
大阪府茨木市を拠点に、就業規則の整備や評価制度の構築、障害者雇用や同一労働同一賃金への対応などを通じて、労使がともに豊かになる職場づくりを力強くサポート。ネットニュース監修や講演実績も豊富でありながら、SNSでは「#ラーメン社労士」として情報発信を行い、親しみやすさも兼ね備えた専門家として信頼を得ている。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)