障害があっても働きたい※画像はイメージです(pain au chocolat/stock.adobe.com/)
障害があっても働きたい※画像はイメージです(pain au chocolat/stock.adobe.com/)

「障害による生きづらさを克服して、仕事や社会と接点を持つにはどうしたらいいですか?」そう寂しげに言葉をもらしたのは、前職で心の不調をきたし退職を余儀なくされた20代の女性。自己否定に陥り、新しい仕事を探すのも手につかない状態です。

「働きたいけれど、できないことも多く周囲に迷惑をかけてしまう」「周りの否定的な目線が気になり、仕事も長続きしない」…。ハンディを持ちながらも仕事をしていると、そんな悩みに直面し、退職をしてしまうケースも珍しくありません。

厚生労働省によると、2025年6月時点で、日本国内で「障害者雇用」の枠で働いている人は、67万7461.5人とされています(週所定労働時間30時間以上の常用労働者を「1人」としてカウントし、週所定労働時間20時間以上30時間未満の常用労働者を「0.5人」としてカウントしているため、小数点以下の数字が発生しています)。また法定雇用率(民間企業に雇用される障がい者数の割合)は、民間企業で2.5%(2025年8月現在)が義務付けられているものの、未達成企業は6万3364社に上るという現状もあります。

一方で、障害を持ちながらも、自分の特技を生かし社会で活躍する障害者クリエイターの方々も増えてきているのも現状です。ここからは、障害者クリエイターの事例を紹介しつつ、生きづらさを抱える人々が自分らしく働けるようになるためのヒントもお届けします。

■「できない」を仕事に変えた障害者クリエイターの事例

障害を抱えて働くことは、体調や機能上の制約を克服することだけはなく、社会からの視線や偏見とも向き合うことも意味します。職場では「できない」という評価が先行し、周囲の理解が得られず、障害当事者が苦しむ場面も珍しくありません。また、周囲と自分を比較することで「自分は劣っているのでは」と思い込み、挑戦する前からあきらめてしまうケースも多くあります。

一方で、自分の得意分野を見極め、新しい働き方に挑戦している障害者クリエイターの事例もあります。今回は3つの事例をご紹介します。

▽感性を表現できるアート雇用

精神疾患を持つアート社員のAさん。前職の過労により精神疾患を患い、一般的なフルタイム勤務が困難になりました。それでも、幼い頃から絵を描くことが好きだった彼女は、治療のかたわら、絵を描き続けました。ある日「アート雇用」という求人に目がとまり、ポートフォリオを持って応募。彼女の独特な感性を生かしたイラストが企業に評価され、企業のアート社員として勤めているようです。

彼女の場合「得意で夢中になれること」を突き詰めることで仕事に変えられる好例といえるでしょう。

▽言葉を武器にしたエッセイ執筆

視覚障害を持つエッセイストの事例です。Bさんは、幼い頃の交通事故で視覚に障害を持つようになりました。自身の体験や心の葛藤をエッセイとしてSNSに発信したところ、彼の「生きづらさ」を赤裸々に綴った文章は多くの人々の心を打ちました。出版社の目に留まり書籍化が決定したことで、結果的に公演依頼やコラム連載へと繋がりました。

彼にとって「生きづらさ」は事実ではあったものの、その体験をありのままに綴ることで「他者に必要とされる仕事」へと変化していきました。

▽新しい発想を活かせるデザイン制作

生まれつき身体に制約のあるクリエイターのCさん。彼女は日常生活に困難を抱えながらも、就労継続支援B型事業所で興味を持ったWEBデザイン業務に夢中になり、長く懸命に取り組んでいました。デザイン領域の基礎や色彩感覚を学び、WEBデザイン業務を磨き続けてきたようです。

最終的には民間企業の障害者雇用枠でデザイナーとして活躍しており、持続的な収入を得られるようになりました。

■自分らしく働くための具体的なポイント

障害者クリエイターの事例に共通するのは「できない」を無理に克服するのではなく、自分らしく働けるように工夫をしている点です。その具体的なステップ3つをご紹介します。

▽1 得意分野に集中する

すべてをこなそうとせず、得意な分野を磨き上げることが大切です。アート、文章、デザインといった表現活動は、個性や独自性などの強みがあるほど評価されやすい傾向があります。一方、苦手な分野に無理に取り組むと消耗が大きく、長続きしないことも珍しくありません。

▽2 苦手を補う仕組みを作る

身体的な事情等により、避けられない「苦手」がある場合もあります。そんなときは、テクノロジーや人との協力で補うことを考えましょう。例えば、スケジュール管理はAIやアプリに任せる、営業や経理は信頼できるパートナーに頼るなど、自分一人で抱え込まない仕組みを作ることが重要です。
困ったときには障害者相談支援事業所のソーシャルワーカーを通じて行政の窓口とつながったり、訪問看護を利用することで定期的に自分の心身と向き合ったりするのも有効です。

▽3 発信を恐れず社会とつながる

SNSやポートフォリオサイトなど、発信の場を持つことも重要です。最初は反応が少なくても、継続して作品や考えを発信することで共感が広がり、やがて仕事の依頼につながることもあります。「誰かに見てもらう」こと自体が自己肯定感の回復につながる点も見逃せません。

障害者総合支援法に基づく福祉サービスも頼りになります。就労移行支援ではクリエイティブスキルの習得や在宅訓練が、就労継続支援では実際の制作業務を通じた社会とのつながりの構築が可能です。詳しくは最寄りの市区町村窓口や相談支援事業所にご相談ください。

■生きづらさを力に変えるために

障害や「できないこと」は、ときに壁や制約として立ちはだかります。しかし、それを自らの表現や仕事へと昇華させる道は確かに存在します。

アートで感性を発揮する人、エッセイで心の声を届ける人、デザインで斬新な価値を生み出す人。彼らが歩んできた道に共通するのは、「得意を伸ばす」「苦手を補う仕組みを作る」「発信で社会とつながる」という3つのステップでした。

生きづらさを抱えている方にとって、その感覚は決して無意味なものではありません。あなたの「できない」も、実は社会に新しい価値を届けるための可能性の種かもしれないのです。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。

(まいどなニュース/もくもくライターズ)