県外に下宿している大学生の子どもがいるAさん。ある日子どもから「歯科検診で過剰歯って言われた」と連絡がありました。「過剰歯って何?」と聞くと、「人より歯が多いらしい」と返ってきます。
これまで学校での歯科検診や歯医者で何度も診てもらっていましたが、今まで言われたことがなかったため、Aさんは驚きます。また周りに相談してみても、誰も過剰歯について詳しく知っている人はいませんでした。
歯が多いだけなら特に不都合はないかと思うのですが、放置しても問題ないのでしょうか。きみえ歯科の中村喜美恵さんに話を聞きました。
■永久歯の根元近くにあると根をとかしてしまうことがある
ー過剰歯とは何ですか?
過剰歯とは、本来あるべき歯の本数よりも余分に存在する歯のことです。通常、乳歯は20本、永久歯は28本、親知らずを含めると最大32本ですが、これよりも多く存在することがあります。生えてくる場合と、骨の中に埋まったままの場合があります。
過剰歯には、正常な歯と同じような向きで存在する順生過剰歯、反対向きに存在する逆生過剰歯、そして、顎の骨の中に真横に埋まっている水平埋伏過剰歯があります。最も頻度が多いのは上顎の正中部に見られる、正中過剰歯です。
ー過剰歯はある程度の年齢にならないとわからないのでしょうか?
乳歯から永久歯に生え変わる時期に、レントゲン検査や歯科健診で発見されるケースもありますが、無症状のまま成長し、大人になってから見つかることもあります。この大学生のお子さんの場合も、おそらく過剰歯が骨の中に埋まったままだったと考えられます。
ー放置しているとどのようなリスクがありますか?
過剰歯が生えている場所や向きなどによって異なりますが、次のような問題が起こる可能性があります。
1.歯並びや噛み合わせに悪影響を与える
過剰歯が顎の骨の中で他の歯を押してしまい、永久歯が本来の位置からずれてしまったり、生えてこられないことがあります。そうなると、歯が重なって生えてきたり、前歯に隙間ができたりと歯並びが悪くなります。歯並びが悪いと、歯磨きがしにくい部分が出てくるため、汚れが溜まりやすくなり、虫歯や歯周病のリスクも高まります。
2.永久歯の根を溶かす
過剰歯の頭にあたる部分が、永久歯の根元近くにあると、その根をとかしてしまうことがあります。根が溶けると、永久歯の神経が傷つき、場合によっては神経が死んでしまう恐れがあります。そうなると、永久歯の寿命は短くなります。
3.嚢胞(のうほう)を形成する
嚢胞とは、膿が溜まって袋状になることです。膿は細菌と戦った白血球の死骸の集まり。過剰歯が骨の中に埋まっていると、その周りに嚢胞ができることがあります。嚢胞が成長すると、永久歯の根を溶かし、最悪の場合には永久歯を失ってしまいます。
ー治療をする必要はあるのでしょうか?するとしたらどのような治療でしょうか?
過剰歯が周囲の歯に影響を与えているときには、基本的に抜歯をおこないます。過剰歯が深く埋まっているほど、抜歯の難易度が高くなります。場合によっては、周囲の骨を取り除かなければならないかもしれません。永久歯が生えそろっている状態で見つかった場合、抜歯をした後にさらに歯列矯正が必要になることもあります。
このお子さんの場合、これまでの検診で問題がなかったということは、過剰歯が骨の中に埋まっていて、かつ他の歯に大きな悪影響が出ていなかった可能性が高いです。まずは、歯科で、過剰歯の位置や向き、他の歯への影響を詳しく確認してもらい、抜歯が必要な状態か、経過観察で良いか、専門家の意見を聞くことが重要です。放置することで将来的なリスクが高まる場合があるため、必ず歯科医師の指示に従ってください。
◆中村喜美恵
(なかむら・きみえ) きみえ歯科 院長 大阪大学歯学部卒業、大阪大学歯学部付属病院に勤務し、2003年兵庫県姫路市に「きみえ歯科」を開業。「健康に美しく!」をテーマに、「歯と全身の健康」に関する講演会を積極的におこない、予防を中心とした歯科からの情報発信を続けている。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)
























