子どもから青年、そして中年へ、14歳から45歳までのとある男性の31年分の証明写真がInstagramに投稿されました。投稿したのは、名古屋でコーヒー店を営む井上健さん(@inouecoffee)です。あどけない表情の学生、髪を伸ばし髭を蓄えたワイルドな若者、40代を迎え渋みと精悍な顔つきとなった現在の姿までを撮影した様子に、「最後がかっこいいのでよし」「『生き様は顔に出る』って言うじゃん」などとコメントが寄せられました。
31年分の証明写真を大切に保管していたのは、井上さんのお母さんでした。
「昨年他界した母の遺品整理をしていたところ、学生時代から現在までの証明写真がたくさん出てきました」
お母さんは女手一つで一人息子の井上さんを育てました。子離れでないほどの井上さんを愛し、そんな母が大切にしていたのが井上さんの学生証でした。それを見つけた時、「あらためて母の愛を感じました」としみじみと語ります。
幼稚園から大学まで、井上さんが通っていたのは名古屋の私立一貫校・南山学園でした。
「『人間の尊厳のために』というモットーのもと、キリスト教のカトリック教育を受けて育ちました。中高では男女別校で真面目な学生生活を送りましたが、大学で共学になってから、何かが弾けてしまいました(笑)」
大学生になると髪を徐々に伸ばし、外見の雰囲気もそれまでとは変化が見られるように。
「まだまだバブルの残り香がある時代で、テニスサークルやスキーサークルといった華やかなイベント系サークルに所属していました。そんな中で私はテニスとスキーのインストラクターのバイトもしていたので、サークルでは中心人物として大学生活を謳歌していました」
大学卒業後は就職氷河期ということもあり、自らイベント会社を立ち上げて、サークル活動の延長のように過ごしていたのだとか。自由奔放だった当時について、「自堕落な生活が外見にも現れているのでは」と井上さんは語ります。
「毎晩のように朝まで飲み明かして、家には帰らず、悪い仲間達とツルむようになり、随分と母を悲しませたと思います。実家は百年続く老舗の家業で、親族に囲まれ、甘やかされて育ちました。地元では上位校で知られる大学までエスカレーター式に進学し、卒業後も遊びの延長のような仕事をして金まわりが良かったので、文字通り遊んで暮らしていましたね」
肩まで伸びた髪に、鼻下にたくわえられたヒゲ。やや仏頂面で写る証明写真には、「闇金世界を描いた漫画に出てきそう」「途中から人変わったよね?」などのコメントが寄せられました。
■お酒が原因で人生に急展開「断酒しないと死ぬ」
そんな生活が続くうち、井上さんの人生に転機が訪れます。
「酒と夜遊びが過ぎて、倒れたんです。アルコール性急性膵炎でした。『今すぐ断酒しないと死にますよ』と医師に言われて、断酒を決意しました」
毎晩のように飲んだくれていた井上さんはアルコール依存症に陥っており、「断酒」は決して容易ではなかったといいます。当時の仲間とは縁を切り、短髪にして犬を飼い始めました。アルコールの離脱症状にも苦しめられる中、心の支えは家族と愛犬でした。
「断酒して10年以上、一滴も飲んでいません。家族とワンコへの感謝でいっぱいです」
そんな折、家業はコロナ禍で倒産。疎遠だった実父が認知症を発症し、介護を引き受けることになったといいます。
「債権者への返済や親の介護など、日々の生活に追われる毎日ですが、現在は愛犬に囲まれて穏やかに暮らしています。母にももっと親孝行したかったのですが、昨年急逝してしまいました。最後の写真について『引き締まった表情』と言っていただけるのは、やっと責任感を持つようになったからかもしれません」
井上さんにお気に入りの写真を尋ねたところ、「人相の悪い免許証2枚ですね」と笑います。
「昔からの幼馴染には『どの顔も見覚えある』と言われましたが、最近知り合った友人には『最後の1枚を見るまで気づかなかった』と言われました」
波乱万丈の31年間を物語る証明写真を見返し、「『生き様は顔に出る』は本当だと思います」と井上さんは語りました。
























