TKGって海外では珍しい? ※画像はイメージです(Nishihama/stock.adobe.com)
TKGって海外では珍しい? ※画像はイメージです(Nishihama/stock.adobe.com)

すき焼きに溶き卵を使ったり、卵かけご飯として食べたり、日本では多くの料理で生卵が食べられています。しかし海外では生卵を食べることは少なく、むしろ避ける傾向が多いとされています。日本の感覚だと、「あんなに美味しいのになぜ?」と疑問に思う人が多いでしょう。

逆に海外からすると、なぜ日本では生卵が食べられるのか疑問なようです。なぜ日本では生卵を食べられるのかを、日本養鶏協会アドバイザーの信岡誠治さんに聞きました。

■主な原因はサルモネラ食中毒

ー海外で生卵を食べない理由は?

海外では卵を生で食べることについては、サルモネラ菌による食中毒の恐れがあるとして法律や州法(条例)で禁止しているところが多いのが実情です。

米国農務省(USDA)は「卵には食中毒を引き起こす可能性のあるサルモネラ菌(SE)が含まれている可能性があります。食の安全のためには、卵は衛生的に取り扱い、速やかに冷蔵し、完全に加熱調理する必要があります。」としています。そのため海外では、卵を生でたべることはタブーであるのが一般的です。

米国では、2025年6月には卵によるサルモネラ食中毒が7つの州で発生し、79人が発症、21人が入院、全米で約1,920万個の卵が回収・廃棄される事態となっています。

ー日本の卵はなぜ生で食べられるのですか?

日本では1990年頃まで、サルモネラ菌食中毒事故全体の1~3%が卵類由来によるものでした。しかしその後、国の指導を受けて鶏卵生産者だけでなく関係する全ての業者のサルモネラ菌フリーへの取り組みの結果、2000年以降は国産の卵の中のサルモネラ菌汚染率は約0.003%(10万個に3個)という極めて低い水準になりました。

サルモネラ菌で汚染されている卵は、保存温度が高いとサルモネラ菌が急激に増殖し、食中毒を引き起こす危険性が高まってきます。逆にサルモネラ菌に汚染された卵であっても保存温度が低ければサルモネラ菌の増殖はほとんどありませんので、食中毒発生リスクはほとんどありません。

-温度がカギなんですね。

サルモネラ対策は、生産段階だけでなく、流通段階や小売段階、家庭での保存を通じて一貫した温度管理の徹底が重要となります。

そのため流通、販売段階での温度管理は徹底して行われています。また、卵のパックのラベルには保存方法として、「お買い上げ後は冷蔵庫(10℃以下)で保存してください」と必ず記載されています。これは万一の場合にも備えた安全確保の取り組みです。

採卵養鶏場だけでなく関連する種鶏場、孵卵場、配合飼料工場、GPセンター、配送業者、小売業者など鶏卵産業全体でサルモネラ対策に取り組んできた結果、卵による食中毒の発生を顕著(ほぼゼロ)に減らすことができました。

ーだから卵かけご飯を美味しく安全にいただけるんですね。

炊きたてのご飯に生卵をかけてかき混ぜていただくTKG(卵かけご飯)が、いまや日本の食文化として広く定着しました。最近は海外から来る旅行者(インバウンド)にもTKGが親しまれるようになっています。

すでに香港などではTKGの専門店もできています。TKGはいまや英語ではなく世界共通語として通用するようになっています。

■卵の値上がりの鍵は鳥インフルエンザ

ー卵が値上がりしていますが、今後も卵を安定して供給することは可能でしょうか?

高病原性鳥インフルエンザの発生をコントロールできれば、今後も鶏卵の安定供給はできます。日本では高病原性鳥インフルエンザの大発生による卵の価格変動も、米国やヨーロッパのように卵1個当たりで100円を超えるような暴騰にはなっていません。

鶏卵(粉卵が多い)の輸入にも食品会社は取り組んでいますが、現在は国内よりも海外から輸入する方が高いので、輸入量は減っているのが現状です。

◆信岡誠治(のぶおか・せいじ)
日本養鶏協会アドバイザー 東京農業大学元教授。一般社団法人日本養鶏協会のエグゼクティブアドバイザーを務める。著書に「我が国における食料自給率向上への提言PART-2、PART-3」(筑波書房)、「資源循環型畜産の展開条件」(農林統計協会)、「畜産学入門」(文永堂出版)。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)