虐待の日々だけでなく母親と交際相手の争いもすべて見てきた ©押川剛 鈴木マサカズ うえのともや/新潮社
虐待の日々だけでなく母親と交際相手の争いもすべて見てきた ©押川剛 鈴木マサカズ うえのともや/新潮社

一見平和に見える日常でも、別の場所では幼い子どもたちが過酷な環境に置かれている現実があります。そして、心に深い傷を負った子どもたちを支える場所が「児童養護施設」です。その現場を綿密な取材をもとに描いた作品『それでも、親を愛する子供たち』(原作:押川剛さん/構成:鈴木マサカズさん/作画:うえのともやさん)が話題を集めています。

物語は、荒れた部屋で大人たちが注射器を腕に刺す様子を、押し入れのような狭い空間から見つめる幼い子どもの場面から始まります。体は汚れ、髪や爪も伸び放題と、明らかな虐待とネグレクトの中で、子どもは小さな手に一本のにんじんを握りしめていました。

翌春、児童養護施設「サニーベル学園」に里香という少女がやってきます。明るく振る舞うものの、担当のすみれ先生に「大変だったね」と声をかけられた途端、表情は硬くなり、涙が浮かびます。

場面は変わり、職員会議では里香の事情が共有されます。7歳の里香は母子家庭でネグレクト傾向があり、母親は覚せい剤使用で逮捕されたのです。その背景には母親と交際相手の事件が関係し、里香はその一部始終を見ていたことも明かされます。深刻な心の傷に配慮しながら、心理士と連携して支援していく方針が確認されました。

里香が受けていた虐待の中には、食事を十分に与えられていない状況で、母親の交際相手から「ぴょんぴょんしないと食わせねえぞ」とまるでその場でジャンプするような指示をされることがありました。交際相手は指示をしながらも、里香の様子をスマホのカメラで撮影していたのです。一体何をさせられていたのかは明確に描かれていませんが、この指示が里香の心を傷つけた一因となっていたのでしょう。

また里香以外のサニーベル学園の子どもたちも、里香と同様に全員が心に傷を負っているようです。そんな子どもたちと、彼女たちを支える先生たちは、今日もまたそれぞれの学校へ一緒に向かうのでした。

同作は、くらげバンチにて連載中の『それでも、親を愛する子供たち』からの抜粋です。読者からは「他人事ではいられない」や「自分を含め、今までの自分にはなかった価値観を知ることができます」など感情が揺さぶられたという声が多くあがっています。

そんな同作について、構成の鈴木マサカズさんと作画のうえのともやさんに話を聞きました。

■常に思うのは「自分に無関係な話ではない」ということ

一制作の際に、特に気を付けていらっしゃる点はありますか?

【鈴木さん】
作中の細かいディティールです。たとえば、その子供はどういった家で暮らしながら、どういった服を着ていたのか、どういったものを食べていたのかなど。施設や職員の描写に関しても、実際に現場に携わっている原作者の押川氏のリアリティが大いに役立っています。

【うえのさん】
児童養護施設が舞台ということで子供がたくさん登場しますが、主人公に限らず、その表情や仕草、服装など、モブも含めて一人一人こだわって描いています。様々な事情を抱えて暮らしている子供たちなので、記号的な絵にならないよう気を付けています。

-作品を通して最も伝えたいメッセージを教えてください。

【鈴木さん】
常に思うのは「自分に無関係な話ではない」ということです。自分にも子どもがいますが、親がなんらかの事故で突然亡くなってしまったら、残された子どもは児童養護施設に預けられるかもしれません。実際にそういったお子さんもいます。あと、SNSで大きな反響があった徳川園長の「子供なんて産まないほうがいい人間に限って軽々しく子供を産むんです」という台詞がありますが、自分がそういう親ではないと100%は言い切れませんし、言い切らないほうがいいとも個人的には考えています。

【うえのさん】
安心して暮らせない家庭環境や、施設内でも色々な問題が起こると聞きますが、どんな状況でもそこには必死で暮らしている子供がいるんだということを、絵を通して少しでもリアルに感じてもらえたら嬉しいです。

-お二方のもとには、読者の方々からどのような声が届いていますか?

【鈴木さん】
実際に児童養護施設で過ごした経験のある知り合いから「とてもリアルだ、そのまんまだ」と言われたときは、とてもうれしく思いました。

【うえのさん】
漫画アプリやSNSなどでもコメントをいただいていますが、やはり作中の子供たちと近い環境で暮らしていたという方が多くコメントをしていただいてる印象です。それだけ辛い状況がありながら、いかに世の中に認知されにくいものでもあったのかと感じました。

-最後に伝えたいことがあればお願いします!

【鈴木さん】
先日、担当氏より累計10万部を突破したと聞きました。着実に読んでくださっている読者の方々がいらっしゃることを実感します。心強いです。いつもありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。

【うえのさん】
これからも辛いエピソードなど出てきますが、真っ直ぐ丁寧な作画をしていくのでぜひ見てください!

(海川 まこと/漫画収集家)