出産後から夫を受け入れられなくなって… ※画像はイメージです(metamorworks/stock.adobe.com)
出産後から夫を受け入れられなくなって… ※画像はイメージです(metamorworks/stock.adobe.com)

30代のAさんは、第1子の出産後に自分でも信じられない心境の変化に戸惑っていました。あれほど愛していたはずの夫に対し、生理的な拒絶反応を抱くようになってしまったのです。

夫は家事も育児も積極的にこなしてくれる優しい人です。しかし、ふいに手を繋ごうとされるだけで鳥肌が立ち、夜の誘いも「疲れているから」と必死に拒否し続けています。Aさんの中で、夫はもはや愛する「異性」ではなく、過酷な育児を共に戦う「戦友」か、あるいは「手のかかる大きな長男」のような存在に変わってしまいました。

そんなAさんの本心は「このままでは夫に浮気されるかも」という恐怖と、「今はとにかくそっとしておいてほしい」という思いの間で揺れています。産後のAさんの心身に一体何が起きているのでしょうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を聞きました。

■脳が「赤ちゃんを守ること」を最優先にする

ー産後の女性が、夫に対して「生理的な嫌悪感」を抱いたり、性欲が減退したりするのはなぜですか?

母親の脳は、出産した瞬間から「赤ちゃんを守ること」を最優先にするモードに切り替わると言われています。そのため、赤ちゃんに近づく存在に対して過敏になり、たとえ実母や夫であっても、自分の領域を侵す「敵」のように感じてしまうことがあります。これがいわゆる「ガルガル期」の一端です。

また、出産は「交通事故に遭ったのと同じくらい」と言われるほど体に大きなダメージを負います。その満身創痍の状態で、24時間待ったなしの育児が始まります。食事や睡眠といった「生きるために最低限必要なこと」だけで精一杯になり、性欲が二の次になるのは、生物として当然の反応なのです。

ーこの拒絶感は、いつ頃まで続くのが一般的ですか?

一般的には産後1ヶ月から3ヶ月ほどで落ち着くと言われていますが、実際には1年ほど続く方もおり、個人差が非常に大きいです。

回復の鍵を握るのは「安定した休息」です。数時間おきの授乳や夜泣きで睡眠が細切れになれば、人間は思考が正常に働かなくなります。隣で夫がぐっすり眠っているのを見るだけで殺意を覚える、という相談も少なくありません。

奥さんが「普通のライフスタイル」に戻り、まとまった睡眠が取れるようになるまで、自然な回復は難しいと考えたほうがよいでしょう。

ー妻側が、夫に対して「愛していないわけではない」と傷つけずに伝えるには、どうすればいいでしょうか?

まず夫側に理解してほしいのは、妻側は「あえて拒んでいる」のではなく、ホルモンや環境の影響で「自分でもコントロールできない状態にある」ということです。

奥さんは一人で抱え込まず、悪化する前に「今は心身ともに正常な状態ではなく、余裕がない」という事実を正直に伝えましょう。その際、夫を拒絶するのではなく、「これからは協力して親として成長していこう」「あなたを頼りにしているよ」と、同じ目標を持つパートナーとして頼る姿勢を見せることが大切です。

ー夫婦関係を維持するために、今すぐできるアドバイスはありますか?

夫側ができる最高のリフレッシュは、奥さんに「一人きりになれる時間」をプレゼントすることです。日中の1時間だけでもいいので、美容院に行って髪を洗ってもらったり、一人で散歩をしたりする時間を作ってあげてください。

「一人の人間」としての感覚を取り戻すことで、ようやく夫を思いやる余裕が生まれます。出産前に「こういう時期が来るかもしれない」とリスクを共有しておくのが理想ですが、今からでも遅くありません。お互いに「父親・母親」としての変化を受け入れ、焦らずに新しい関係を築いていってほしいと思います。

◆木下雅子(きのした・まさこ) 行政書士、心理カウンセラー
大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)