先生の目が充血している(むろんさん提供)
先生の目が充血している(むろんさん提供)

人と接していると、「この人はちょっと怖そう」「冷たい人なのかな」と、相手の雰囲気だけで判断してしまうことはないでしょうか。そんな「冷たい人」だと思っていた相手の意外な一面を知り、見方が大きく変わった出来事を描いたむろんさんの漫画『精神科の先生の涙』が、Instagramに投稿されました。

主人公の女性は、精神科の病院に通院しています。担当の先生は、寡黙なタイプで淡々と診察をするため、女性はこれまで少し苦手意識を持っていました。しかし、その苦手意識は通院3年目のある日に解消されることになります。女性がいつものように病院に行くと、先生の目が充血していました。

女性が「目が赤いですね」と声をかけると、先生は驚いたような顔をして黙り込んでしまいました。「まずいことを言ってしまったかもしれない」と思っていると、先生は「先ほど亀の産卵のドキュメンタリーを見ていて……」と意外な回答をします。

さらに先生は、以前夜勤中にドラマを見て泣いていたところ、看護師に笑われてしまったことまで話してくれました。じつは先生は、患者の気持ちにはできるかぎり寄り添いたいと思っているものの、涙もろいため、少し顔を緩めるだけで涙が出てきてしまうのだといいます。「全部を抱え込んでしまったら、診察ができなくなるから」と、患者の前では意識して表情を崩さないようにしていたのでした。

先生は感情がないのではなく、患者の気持ちを真摯(しんし)に受け止めてきたからこそ、その思いを簡単には顔に出さないようにしていたのです。診察を終え、帰り際に先生からいつもの無表情で「しっかり睡眠をとってくださいね」と声をかけられます。その言葉は、どんな優しい笑顔よりも温かく感じられたのでした。

同作について、作者のむろんさんに詳しく話を聞きました。

■「怖い先生」だと思っていた精神科医 診察を重ねて知った意外な一面

--先生の人物像は、どのような発想から生まれたのでしょうか?

実は、この先生は私自身がお世話になっている精神科の先生がモデルです。私は38歳のとき、生きづらさで悩み、勇気を出して初めて精神科を受診しました。最初は表情があまり変わらず、淡々と話を聞く先生だったので、正直「少し怖い先生なのかな」と思っていました。

でも診察を重ねるうちに、先生のプライベートな話などから人間性が少しずつ見えてきました。それまで「淡々としている」と感じていた姿は、冷たいのではなく、患者の前で自分の感情を出さないようにしている姿なのかもしれないと思ったんです。そのギャップが心に残り、漫画にしました。

--先生が患者さんの前で感情を見せないようにしているのは、どうしてだと思われますか?

先生は、たくさんの患者さんから、つらい話や苦しい話を聞いていると思います。それでも患者さんの前では冷静でいなければ、的確なアドバイスもできないと思います。自分の感情よりも、目の前の患者さんを支えることを優先しているのではないかと感じました。

「感情を見せない=冷たい」ではなくて、その人なりの優しさやプロとしての在り方なのかもしれない。そんなふうに感じるようになりました。だから漫画でも、最初は「怖い先生」に見えていた人物が、読み進めるにつれて全く違って見えてくるように描きたいと思いました。

--「優しい人はいつも笑っている人ではなく、泣きそうな心を隠しながら誰かを支えている人」という結末には、どんな想いを込めたのでしょうか?

これは先生と接する中で、私自身が感じたことです。私自身、精神科医はいつも笑顔で優しい言葉をかけてくれる人を想像していました。でも先生の優しさは、そういう分かりやすいものとは少し違いました。亀の産卵シーンで涙したり、夜勤の休憩中にドラマを見て大泣きしたりする一方で、患者さんの前では涙を見せない。

精神科の先生も、1人の人間です。人の痛みに心を動かされながら、それでも患者を支えるために自分の感情をそっとしまっている。その姿を見て、「優しさって、表情や言葉だけでは分からないんだな」と思ったんです。誰かを支えるために、自分の感情をそっとしまっている人もいる。優しさの種類って、いろいろある中の一つを今回先生と出会って気づかせてもらったことを、漫画の最後の言葉に込めました。

(海川 まこと/漫画収集家)