バイトを無断で辞める(通称『飛ぶ』)ことを、ネットスラングで「バックラー」と呼びます。一般的なアルバイトではそこまで頻発しないですが、キャバクラや風俗店などの夜の世界では、残念なことに日常的に発生します。業界に長く滞在すると感覚が麻痺し、新人が飛んでも何とも思わなくなるのが恐ろしいトコロです。
昼バイトと違って、ナイトワーカーは退職の旨を申し出ると不利になるのが最大のデメリット。しかし砂をかけて辞めれば自分の首を締めやすいため、“連続バックレ”は避けるべきなものの、悪い癖がつくと正式にやめることが困難になるようです。
■イヤになると飛んじゃう!「やめます」が言えないワケ
今まで飛んだお店は10店舗(!)というプロバックラーを自称するナイトワーカーのハチさん(仮名・25歳)は「正式に退店したことの方が少ない」と語ります。
夜職は退職届もいらず、職種によっては明日にでもやめられるはずなのに、どうして“飛ぶ”以外の選択肢を取れないのか聞いてみると、以前退店の旨を伝えた時の不遇な扱いがトラウマになってしまったようで……(以下『』内、ハチさん談)。
『夜職デビューの飲み屋は退店を2カ月前から申し出なければならず、規則を守ってきちんと事前申告したのです。そしたら2カ月間一切フリー客にはつけてもらえず、自分の客以外はヘルプのみ。おまけに最後は給料も払ってもらえず、ゴネて喧嘩して大変なことになりましたよ。それがきっかけで“まともに申告するだけアホじゃない?”ってなってしまった(笑)』
夜の世界では利益を出す人間がもっとも重宝されるため、去っていく人に対しては多少冷たくなるのが普通です。フリーをつける回数が減るのは仕方がない話ですが、2カ月間もシビアな待遇に加えて給料未払いはヒドイです。
そこからやる気を失ったハチさんはさまざまな店舗の入退店を繰り返し、退店=飛ぶがすっかり身についてしまいました。嫌なことがあると無断欠勤を繰り返した末にバックレたり、ひどい時は勤務中に帰宅したことも……。
途中で飲み屋から風俗業に移行したのも、バックラーがやめられなくなった理由の1つだと言います。
『風俗って今すぐ辞めます!も可能じゃないですか?だから飛ぶ子も多いし、飛んだらすぐ在籍パネル消されるからバックレやすくって(笑)体入してバックレ、1~3日働いてバックレ、みたいなのを繰り返していたら気づけばトータル10店舗くらい飛んでいましたよ。我ながら恐ろしいです』
知人にもバックラーがいるそうですが、彼女の場合は「やめます」の一言さえもめんどうとのこと。退店の意思を口に出すと終わりの日まで出勤するのが億劫になるらしく、気づけば“飛ぶ”という行動に走ってしまうようです。
■横と横は繋がっている!バックラーがおすすめできないワケ
現在の職場は11店舗目で在籍歴4カ月、ハチさんの中ではかなりの長期勤務です。今まで即日~数日で飛んでいた中での数カ月の継続は大きな進歩といえますが、本人曰く「いよいよ行けるところが減ってきた」だそう(苦笑)
夜のお店は横同士が繋がっており、グループ内では情報が共有されています。また、表立って系列と謳わずとも、じつは裏で仲良くしているパターンもあり、飛んだ事実がバレたら面接に弾かれてしまうのです。
昨今では吸収・合併も多く、個人店がグループに加入なども決して珍しくはないそう。要するに個人店を受ける→前に飛んだお店のグループに入っていた!等の事故(?)が起きれば、行き場を失うのも納得です。
『今ってどこもグループ化していたり、経営がキビしいから横と横で手を繋いでるパターンが本当に増えました。だから“ここならイケるだろ”と思ったら“げー!この前飛んだところの系列になってる!”みたいなこともあるある(笑)地方店でさえそんなことがあるくらいなんで、バックラーしてたらいい加減やばいと思って4カ月頑張ってます。でも、もうやめたいですけどね(笑)』
現在はひとまず、「嫌になったら飛ぶ」から「嫌になった当欠(当日欠勤)して、翌日から仕切り直す」というスタイルを頑張っているそう。
ハチさんのように10店舗を経て改心できれば良いですが、なかにはそれ以上の記録を更新する人も……。無断での退職は必ず誰かに迷惑がかかっているもの。「きちんと退店」も仕事のうちですから、どんな業界でもバックラーにならないよう気を付けたいものです。
◆たかなし亜妖(たかなし・あや)
元セクシー女優のシナリオライター・フリーライター。2016年に女優デビュー後、2018年半ばに引退。ゲーム会社のシナリオ担当をしながらライターとしての修業を積み、のちに独立。現在は企画系ライターとしてあらゆるメディアで活躍中。























