アイスキャンデーを包む岩下愛子さん=鈴木商店
アイスキャンデーを包む岩下愛子さん=鈴木商店

 東西を走る国道2号。南北を貫く十二間道路。2本の幹線道路が交わる田中交差点の北西角地(神戸市東灘区田中町3)にそのお店は“鎮座”する。白壁には「味覚の王座」の文字。一番下に「鈴木商店」とある。神戸で創業した世界的な総合商社「鈴木商店」ではない。70年超、地域住民に愛され続けるアイスキャンデーが名物のお店だ。昭和の残り香を放つ、店内を突撃した。(篠原拓真)

 1947(昭和22)年の創業。阪神・淡路大震災で被災するまでは食堂を営み、中華そばや焼き飯、カレーライスなどとともにアイスキャンデーを販売していた。今はミルク▽ミルク金時▽バナナ▽カルピス-の4種類が店頭に並ぶ。

 製造はすべて手作業。アイス液を配合し、型に流し込んだ「ネタ」に1本ずつ棒を差し込んでいく。冷凍したアイスキャンデーは包装し、さらに一晩冷やし固めるという。作業を担うのは親族6人。「夏場は1日千本売れる日もある」と3代目店主の和田純子さん(49)は話す。

 原材料は牛乳と砂糖、練乳で、創業当時から受け継がれているレシピを参考に、ミルク金時やバナナといった中に入るものに合わせて配合量を変えていくという。和田さんは「理由は分からないけど、ミルクだけは生乳じゃなく粉乳。あとはただただレシピを忠実に守るだけ」と笑う。

 取材中にも「ミルク二つ」と硬貨を握りしめて店を訪れる子どもに、販売窓越しに包装紙に包まれたアイスキャンデーを新聞紙で包んで渡す。「これも昔ながらのやり方。窓から見る景色は変わってもこのやりとりはずっと一緒」と、和田さんの母・岩下愛子さん(82)は口にする。

 「それではここで1本」と、和田さんにいただいたアイスキャンデーを頬張る。棒が斜めに差し込まれたミルク味だ。「これもまた一つの“味”なのか」。気付くと4種類をすべて食べていた。