■傷心越え、労働の神聖さ描く
現在、神戸市立博物館(同市中央区京町)で開催中の特別展「大ゴッホ展 夜のカフェテラス」(神戸新聞社など主催)は、世界的画家フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~90年)の画業前半に焦点を当て、オランダ時代の作品が多数、展示されている。長年、オランダで暮らしたゴッホ研究家、吉屋敬さんに、オランダ時代のゴッホについて寄稿してもらった。
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私がオランダのハーグの町に行ったのは、今から60年前の1965年のことだった。まだゴッホ没後75年、戦後20年のことで、ゴッホが生きた時代の名残と、彼の息吹が残っているような古い町だった。東京オリンピック後の活気に満ちた日本から行った若い私の目には、すべてがセピア色の世界に映った。オランダ鉄道駅(現在の中央駅)の壁の漆喰(しっくい)の網目模様が、戦争の爪痕(つめあと)を残していた。

























