「京都で学び、大阪で働き、神戸に住む」。関西の理想とされた生活スタイルだ。だが大阪で働く兵庫県民は減る一方で、2020年の国勢調査では30万人を割り込んでいる。
この背景の一つに東日本大震災をきっかけに企業に普及したBCP(事業継続計画)がある。災害時でも事業を継続するのに必要な体制を事前に整えておく計画のことだ。そこではいざという時、トップや必要な社員が徒歩でオフィスに到達できることが重視される。そのため阪神間に構えていた社宅や寮を閉鎖し、オフィスのある大阪市内のマンションに社員を集約させる企業が増えてきた。
こうした需要が底支えしていることもあり、都心でのマンション供給は相変わらず活発だ。もちろん梅田の大規模再開発も追い風となっている。次々と企業が梅田へオフィスを移し、跡地には新築マンションが建設される。梅田が一段落したら、次はアフター万博効果に期待する声も大きい。
ただ、こうした表向きの活況とは裏腹に不動産市場は大きな壁に直面している。建設従事者の担い手不足だ。国は「建設技能労働者数は5年ごとに約7~8%ずつ減少」(国土交通白書)と警鐘を鳴らすが、もはや現場での人手不足は災害レベル。ゼネコンはとっくにもうからない工事を断る「選別受注」にかじを切っており、プロジェクトコストもどんどん膨張している。わが兵庫県でも、もともと21年に予定されていた県庁建て替えを28年以降に先送りしたことで建築単価が1・5倍に跳ね上がってしまった。
残念なことに高騰する建築費に賃料が追いつかない。市況データをいくら見ても梅田以外ではオフィス賃料が20年前の水準にすら戻っていないのだ。首都圏への本社移転が止まらず、需要の多くが関西エリア内での玉突き移転にとどまっているせいだ。
こうした状況を踏まえると、万博工事費の未払い問題は決して個別のトラブルとは思えない。被害を受けた下請け事業者の自己責任だと突き放す意見もあるが、もし彼らが廃業に追い込まれれば貴重な都市のリソースが失われることになる。いまや建設従事者は都市開発のための不可欠な人的資源、つまり災害時における地域のレジリエンス(回復力)そのものと言ってもよい。
筆者の経験からも、海外案件では国際標準である「FIDIC契約」を用いてさえ費用を巡り紛争になる。経験豊富な法務部門がチェックし保険などでリスク分散を図っても、現場では予期せぬ事態が起きるものだ。だからこそ被害企業自身の問題だと切り捨てる風潮にはどうしても違和感を覚えてしまう。
周囲に確認しても、実際に海外案件のドキュメンテーション(契約)作業に携わったことがある人はみな同情的だ。逆に経験のない人ほど冷淡な意見を述べる。戦争に従軍したことがない人ほどタカ派になると言われる典型的な「チキンホーク現象」が観察される。
そもそもBCPは建物が壊れても復旧できることが大前提。建物を直す人がいなければBCPは成立しない。経済安全保障の観点からも、守るべきは口を動かす人ではなく、現場で体を動かす人だ。
【さいとう・なるひと】金融機関や内閣官房などでの勤務経験を経て現職。空港アナリストとして活動し、著書に「最高の空港の歩き方」(ポプラ社)など。西宮市在住。
























