高架化や再整備で目まぐるしく変わる姫路駅前（兵庫県姫路市）だが、長年愛される「変わらない味」がある。中華麺に和風だしというミスマッチが特徴の「えきそば」と、「ゴマみそ」と呼ばれる一風変わった担々麺だ。いずれも老若男女のファンに支えられ、駅前のソウルフードとして人気を二分している。あなたはえきそば派？　それともゴマみそ派？

　在来線ホームの店で、一番人気の天ぷらえきそば（３９０円）を注文すると、２０秒足らずで「はい、お待ち」。透き通った魚介系のだしに黄色い中華麺、小エビの入った天ぷらとねぎ。「誕生から７２年、今も変わりません」と、まねき食品社史編纂室参与の竹田和義さん（７３）は話す。

　料亭や弁当を手掛けていた同社が終戦の翌年、こんにゃく粉とそば粉をまぜた「うどん」を駅のホームで売り出したのが始まり。３年の試行錯誤を経て現在の形に落ち着いた。ラーメンにする案もあったが、料亭の味を取り入れた和風だしは捨てがたかった。傷みにくい中華麺と組み合わせてみると、大ヒットした。

　「ラーメンにしたら生き残っていなかったかもしれないね」と竹田さんは笑う。

　麺は発売時から変わらないが、だしの味が上りと下りのホームで違う時期が１９８０年代にあった。メーカー２社を併用していたからという。竹田さんは「神戸方面は辛めで岡山方面は甘め。微妙な差ですが、気付く人もいます」。今は甘めに統一されている。

　７０年ごろには姫路駅の３店で１日６千食に達した。その後、新快速の増便などで乗客の待ち時間が減り、売り上げは徐々に減少。現在はピーク時の４分の１にとどまる。新たなファンを増やそうと、カップ麺や冷凍麺の販売など次の一手を打ち出す。

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　姫路駅地下街グランフェスタにある「御座候（ござそうろう）フェスタ店」。学生やサラリーマンが黙々と麺をすする。担々麺には２種類あるが、８割の人は「ゴマみそ」（３５０円）を注文するという。

　回転焼きで知られる御座候が約５０年前、姫路駅の地下で販売を始めた。当時、回転焼きに使う北海道産小豆の仕入れが不安定だったため、同社はピザなどの食堂販売も手掛けていた。しかし、なかなか定着せず、まだ知名度が低かった中国・四川省発祥の担々麺に行き着いた。

　本来、担々麺は辛さが売りだが、万人受けする味を目指して辛みを抑えた。豚骨と鶏ガラを煮込んだあっさり風味のスープに、練りごまがたっぷり浮かぶ。アクセントはコーンともやし。姫路でしか食べられない味だ。

　みそを使わない「ゴマみそ」は、たちまち人気商品になった。値段はえきそばに合わせる一方、座ってすすれるようにして差別化を図るなど、当初はライバルを多分に意識したという。

　１０年近く同店で働く山本秀夫さん（６８）は「お客さんはほとんど地元の人。だからこそ守り続けたい」と強調する。

　現在はフェスタ店など３店を展開するが、コロナの影響で売り上げは１０年前の半分程度という。今後は家族連れに狙いを定め、テーブル席も設置する予定だ。

　姫路の駅前に人を集めてきた二つの味。変わらなさを武器に、新たなファンを獲得しようとしている。（井上　駿、山本　晃）

【まねき食品と御座候】まねき食品は姫路駅の開業と同じ１８８８年の創業。翌年、折り詰めに入った幕の内弁当を売り出した。えきそばは戦後に発売し、１９９０年代には姫路駅外へ積極出店。２０１８年には大阪にも進出した。

　御座候は、１９５０年に回転焼きを販売開始。商品名は「お買い上げたまわり、ありがたく御座候」のフレーズに由来する。２００９年、姫路市阿保甲に小豆の食文化を紹介する「あずきミュージアム」を開いた。

【バックナンバー】
（２）高架くぐる市道、なぜ坂道に？
（１）城を見通す絶景、どうやって実現？