兵庫県朝来市内で6月末以降、特殊詐欺事件の被害が相次いでいる。高齢者の自宅の固定電話に、息子や証券会社社員をかたる人物から「息子が税金未納で逮捕される。現金を支払って」などと連絡してくる手口で、4件で392万円の被害が確認された。「朝来大助・花子」の芸名で、同市で詐欺防止を啓発する元兵庫県警の警察官、鷠森(うぐもり)伸一さん(70)と妻丸美さん(71)は「詐欺がなくなるまで活動をやめられない」と、軽妙な掛け合いで警鐘を鳴らしている。(大高 碧)
「社長~、もうちょっと安くして~」。丸美さんが演じる花子のよく通る声が、会場の笑いを誘う。
7月中旬、衣装に身を包んだ2人は、同市和田山町竹ノ内地区の公民館で、約15人の住民らを前に手書きのパネルや小道具を使って詐欺被害の実態を伝える漫談を披露した。
スマートフォンに通信料金の未払いを知らせるショートメッセージが届き、花子は表示された電話番号に連絡する。
すると、伸一さんが演じる大助が、通信販売のテレビCMに出演する社長を思わせる口調の「だましグループの騙太郎(だましたろう)」になって電話口の向こうで告げる。
「1時間以内に無人のエーテーエム(ATM)でお金を振り込むと、5千円を救済できます」
花子は「まあ~、うれし~」と相手をおだてながら、振り込む金額が安くならないかと交渉する。
「社長~」「安く安く安くして~」
□ □
続く講演では、同市内で急増している息子をかたる詐欺の手口を新聞記事の切り抜きを配って紹介した。「怪しいと思ったらためらわずに110番か南但馬署に連絡してください」。注意を促し、約1時間のステージを終えた。
鑑賞した同地区の吉田幸徳さん(69)は「楽しく詐欺の手口を知ることができた。身近なところで起きていると実感したので、地区の人に話したい」。
伸一さんは、明石、神戸北、姫路など都市部の警察署で長年勤めた。定年を5年後に控えた55歳で念願だった駐在所勤務を希望し、2012年3月に夫婦で朝来市に移り住んだ。
石田駐在所(朝来市石田)で半年勤務した後、朝来駐在所(同市立脇)で定年まで働いた。朝来大助・花子は、朝来駐在所時代に旧朝来署の警察官2人が「部長課長」のコンビ名で防犯漫才をしているのを見て、夫婦で始めた。
□ □
県警を退職後も活動を続けて「いい人が多い朝来でずっと暮らしたい」との思いから、神戸市垂水区の自宅を引き払って本格的に移り住んだ。退職からもうすぐ10年がたつが、月1、2度、朝来市内の公民館などで啓発活動に取り組む。
「出たとこ勝負」で漫談に台本はなく、会場に向かう車内で内容を調整する。小道具や衣装、パネルは自分たちで調達し「35億」「ダメよ~ダメダメ」など、時代のネタを織り交ぜて笑いを取る。
2人は今春、約15年の活動が評価され「朝来市まちづくり功績者表彰」を受けた。詐欺の被害が出るたびに肩を落としながら「興味を持ってもらえるように情報を伝え、1人でも被害に遭う人を減らしたい」と前を向き、市内を駆ける。
























