草原の刈り取りは多くのボランティアの協力で成り立つ。1回の活動で30~50人が参加し、年間6~7回に分けて約2ヘクタールを刈り取る=東お多福山草原
草原の刈り取りは多くのボランティアの協力で成り立つ。1回の活動で30~50人が参加し、年間6~7回に分けて約2ヘクタールを刈り取る=東お多福山草原

 草原という言葉を聞くと、海外の広大な牧草地や高原など、少し遠い地域の風景を想像する人が多いかもしれません。しかし、身近な場所にも広大な草原があります。その一つが六甲山地にある、神戸市と芦屋市の境に位置する東お多福山の山頂に広がるススキとネザサの混生する草原です。

 戦前の東お多福山草原は82・9ヘクタールもの大面積で広がり、主にススキが優占する植物が豊かな環境で、六甲山地のハイキングの王道として紹介されるほど有名でした。この姿は、人々が農業や生活のために草を毎年刈り取ることで保たれていました。

 ところが1970年代までに生活様式が変化し、草が刈り取られなくなると、ススキよりもネザサの割合が大幅に増加、樹木も生い茂って多くの場所が森林に変わっていきました。その結果、東お多福山草原の面積は2007年時点で9・2ヘクタールにまで縮小してしまいました。また、ネザサは草丈が2メートル以上に育ち、マット状に広がるため、他の植物を覆って日の光を遮ってしまうため、さまざまな草原生植物が個体数を大幅に減らしてしまいました。つまり、戦後約60年間で東お多福山草原の生物多様性は大きく損なわれた状態となってしまったのです。

 06年度に兵庫県神戸県民局(現・神戸県民センター)が主催した六甲山系里山研究会でこの危機が伝えられると、六甲山地で活動する市民団体がこれに応じ、県民局をはじめとする行政機関(環境省、神戸市、芦屋市)と共に、草原の生物多様性を取り戻すための刈り取り活動をはじめました。17年間で市民と行政の協働の輪は広がり、現在では約2ヘクタールの範囲でススキの割合が増加、ネザサの草丈も低く抑えられ、ニオイタチツボスミレ、オカトラノオ、ササユリ、ツリガネニンジン、シラヤマギク、リンドウなどの草原生植物が多数見られる状態にまで回復しています。これらを楽しみに訪れるハイカーも多くなっています。

 このような活動は多くのボランティアが支えています。しかし近年、ボランティアの高齢化が進み、こなせる活動量が低下しています。また定年延長、年金受給年齢引き上げ、女性の就労率向上など社会構造の変化により、新たな協力者が得にくくなっており、活動の持続性が危ぶまれています。これからも東お多福山草原を良好に保つためには、刈り取り活動を高齢のボランティアだけに頼るのではなく、行政がより積極的に参画することや、現役世代が参加しやすい環境を整えることが強く求められると思われます。