兵庫県丹波市や丹波篠山市には、およそ1億1千万年前の地層である下部白亜系・篠山層群大山下層が広がっています。近年、この地層からはヒプノベナトールやササヤマグノームスといった恐竜の化石が相次いで報告され、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。
この地層では恐竜に限らず、さまざまな生物の化石が発見されています。なかでも注目されるのが、小型脊椎動物、特にカエル類の化石です。これまでに確認されたカエルの化石はおよそ5千点にのぼり、数の多さは群を抜いています。日本屈指、いや世界でも有数の中生代カエル類の化石産地といっても過言ではありません。
発見されているカエルの化石の多くは、大腿(だいたい)骨や脛腓(けいひ)骨といった部分的な骨や、その断片です。しかし中には、ほぼ全身の骨格が保存された貴重な標本もいくつか含まれています。特に保存状態の良い2点の標本をもとに研究を進めたところ、両凹型の椎骨や肋骨(ろっこつ)の存在など(現生カエル類の多くは肋骨を欠く)、原始的な特徴が認められ、それぞれに異なる形態的特性が確認されました。
他の中生代カエル類と比較しても明確な類似例は見当たらず、それぞれ新属・新種のカエルとして、ヒョウゴバトラクス・ワダイおよびタンババトラクス・カワズと命名されました(図1)。
この研究により、篠山層群からは少なくとも2種類のカエルが確認されたことになります。では、これら以外に見つかっている多数のバラバラな骨はどうでしょうか。それらもこの2種に含まれるのか、それともまったく別の種なのでしょうか?
この疑問を解明するため、前述の2種を対象に高精細のCT撮影を行い、個々の骨の形状や特徴を詳細に調べました。その結果、一見するとよく似ている骨にも明確な違いがあることがわかりました(図2)。こうした特徴を手がかりに、大腿骨や脛腓骨など約100点の化石を調査したところ、およそ9割が先に述べた2種に同定されました。一方、残る1割の化石には、これらとは異なる特徴を示す骨も含まれており、未記載の新種である可能性も示唆されています。
中生代のカエル類の化石は、世界的にも稀であり、その進化の過程にはまだ多くの謎が残されています。今後も研究を進め、恐竜の影に隠れて暮らしていた小さな生き物たちに光を当てることで、カエル類の系統進化だけでなく、当時の生物相や古環境の復元にも貢献できればと考えています。