阪神・淡路大震災で住職の冨永龍心さん=当時(43)=が犠牲になった須磨寺(神戸市須磨区)の塔頭(たっちゅう)寺院「蓮生院(れんしょういん)」。妻の明子さん(71)が僧侶になり、その後、寺は長男の龍弘さん(41)に引き継がれた。
「お寺のこととか、いろいろ聞いてみたいのに何も聞けない。それが残念ですね」。龍心さんが亡くなったときは小学5年。寺の仕事について話した記憶はない。
龍弘さんが明子さんから引き継ぎ、正式に住職に就いたのは10年ほど前のことだ。その数年後、大黒天の小さな仏像が寺に戻ってきた。震災後、所在が分からなくなっていたが、仏像を手がけた仏師が骨董(こっとう)品店で見つけて届けてくれた。「お父さんはよく研究する人で、注文が細かくてね。2人で一緒に彫ったようなもん」と教えてくれた。
父の話を聞けてうれしかった。けれどふと、複雑な気持ちもこみ上げてきた。