兵庫県警察本部=神戸市中央区
兵庫県警察本部=神戸市中央区

 昨秋の兵庫県知事選で、再選された斎藤元彦知事が選挙運動の見返りにPR会社に報酬を支払ったとして、公選法違反(買収、被買収)の疑いで斎藤知事と会社社長が告発された問題で、県警捜査2課は20日、同容疑で2人の捜査書類を神戸地検に送付した。捜査関係者への取材で分かった。県警は起訴を求めるかどうかの処分意見を明らかにしていない。地検が刑事責任を問えるかを判断する。

 斎藤知事は同日、取材に「適法に対応してきた認識に変わりはない。捜査にはしっかり協力したい」と述べ、「県政をしっかり前に進めていくことが大事」と辞職しない考えを示した。

 PR会社は西宮市の「merchu(メルチュ)」。社長は知事選後、インターネット上で「広報全般を任せられた」と発信した。

 この問題では、斎藤知事側が計71万5千円を同社側に支払ったことが判明。元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士らが昨年12月、斎藤知事を買収容疑で、会社社長を被買収容疑でそれぞれ県警と地検に刑事告発した。

 公選法は、候補者を当選させる目的で選挙運動をした人物への報酬の支払いを禁じている。告発状では、社長が主体的に交流サイト(SNS)などでの運動を企画・立案し、有償で行っていたと指摘していた。

 斎藤知事側はこれまで、同社への支払いは公選法で認められたポスターやチラシ制作費などだったと説明。社長が携わったSNSでのネット広報や動画撮影などは「個人のボランティアであり、報酬を支払った事実も約束もない」と違法性を否定していた。

 県警と地検は、斎藤知事側からスマートフォンや資料の提出を受け、社長からも任意で事情を聴取。一方、社長側がスマホの提出を拒んだため強制捜査に踏み切り、2月に同社の関係先を捜索した。

■報酬71万5千円「選挙運動の対価」か

 書類の送付を受けた神戸地検が、刑事責任の有無をどう判断し、起訴するかどうかが今後の焦点となる。

 鍵を握るのは、PR会社社長の行為が選挙運動に当たるのか。加えて、支払われた71万5千円が選挙運動の対価だったと立証できるかだ。

 斎藤元彦知事側はこれまで、会社に支払った金銭は選挙運動ではなく、業務への対価だと主張している。

 兵庫県警と地検は、任意提出や強制捜査によって双方のスマートフォンや関係資料を入手。両者がやりとりした履歴や契約状況を調べてきた。だが、捜査関係者によると、押収資料を分析した結果、選挙運動の対価として立証するのは困難な状況とみられる。

 71万5千円とは別の支払いがあったことを示す資料がなく、社長がボランティアで選挙運動をしていたと判断される可能性が高いという。

 告発から捜査書類の送付まで約半年を要した理由について、捜査関係者は「もし不起訴となれば検察審査会に申し立てられる可能性があり、捜査を尽くす必要があった」と明かした。