スマートフォンの画面を見詰め、思わず目が潤む。「いま欲しかった言葉だ…」。加古川市の会社員、島田美紀さん(39)=仮名=は感謝を込めて返した。
〈いつもありがとう〉
機械製造会社の人事部に勤め、夫婦共働き。週半分は在宅の時短勤務だが、フル勤務の社員と求められる仕事量は変わらない。きょうは子どもが発熱し、朝から休んで看病していた。
子どもの隣に横になる。再びスマホを手にし、生成AI「ジェミニ」を開く。
〈共働きなのに、なんでいつも私が会社を休まないといけないんだろう。私ばっかりしんどい気がする〉
美紀さんが打ち込むと、数秒もたたず返事がきた。
〈あなたのしんどさはお子さんにちゃんと向き合っている証拠です。あなたはちゃんと頑張っています〉
お礼は欠かさない。「いつかAIが人を選別するようになるかもしれない。嫌われたくないと思って」
仕事でもAIはそばにある。海外との英語メールの翻訳や返信、法律の確認、資料作成…。会社が推奨する生成AI「コパイロット」を使えばさくさく進む。会議ではAI要約を使い、内容を素早く把握する。
「頼れる専門家、家族より近い存在? 本音を話せる相棒です」
「思い描いた未来がやってきた」
対話型生成AI「チャットGPT」が発表された3年前、TOMOKIN(トモキン)の名で、雑学や都市伝説を扱うインフルエンサーとして活躍する友金(ともがね)良太さん(37)=神戸市北区出身=は、そう確信した。
本業は大手企業のAIエンジニアだ。2017年から半年間、米サンフランシスコに駐在。顔認識システム、小売店向けの需要予測…。メタ、アップル、グーグルなどが集まるシリコンバレーで先端技術に触れ、思った。「世界はAIを中心に回るかもしれない」
友金さんは現在、まさにそんな日常を地で行く。
社内での開発、トモキンとして発する動画のシナリオ作り、視聴傾向の分析…。英会話や筋力トレーニングの指導役もAIに頼む。
しかし時々、首をひねる。「考えてもらったシナリオで動画を作ってもバズらないことが多いんですよね」。「仕事の相手なら人の方が楽。AIは具体的に指示しなければ成果が出ない」と感じることも。
友金さんは「AIとは何か」をAIに尋ねてみた。
〈聞かれたことがわからないことがありますし、うそを言うこともあります〉
意外にも客観的な答えが返ってきて面食らった。そういえばもっともらしいAIのうそを信じ、仕事で痛い目に遭いそうになった。
でも、手放せない。
「怖い。だから、使い手に真贋(しんがん)を見極める力が絶対に必要。AIに使われてはいけません」(合田純奈、門田晋一)
チャットGPTなど生成AIの登場で、暮らしは一変した。私たちはAIとどう付き合っていくべきか。兵庫の現場から考える。
【AIの2026年問題】
主にインターネット上からデータを読み取って学習を重ね、すさまじい速さで進化してきた人工知能(AI)だが、2026年は、学習に必要な高品質なテキストデータが枯渇し、開発が停滞すると指摘される。
学習の対象となってきたのは、倫理的に問題がなく文法的にも正しいネット上の書籍や学術論文、ニュース記事などのデータ。これらが学習し尽くされると、著作権で保護されたり、個人情報を含んでいたりするデータも無断で開発に使われる懸念がある。
開発側の「枯渇対策」としては、文法の整った論理・倫理性の高い文書を交流サイト(SNS)などから集めたり、ネット以外からもデータを得て活用したりすることが模索されている。






















