J1リーグ初制覇を決めるまでの1週間、神戸のFW武藤嘉紀はぐっすりと眠れずにいた。「優勝を逃す夢をめちゃくちゃ見た」。歓喜が訪れた11月25日の名古屋戦。ロスタイムに入ると、自然と涙がこぼれた。
東京に残した家族を犠牲にしてまで、この瞬間に懸けてきた。シーズン中もオフに新幹線や飛行機で帰ることは可能だったが「往復の体の負担は軽くない」と、コンディションを優先して会わない日もあった。アルコールをほぼ口にせず、日々の食事も管理栄養士をつけて最善を尽くした。
それでも満身創痍(そうい)。夏場は体調不良が続いた。11月12日の浦和戦では空中戦で背中から落ち、「手を見たらすごく血が付いていた。口の中は切れていないのに」。精密検査で肺裂傷、肺挫傷と診断された。